【夢枕獏】小説 ゆうえんち -バキ外伝- 1

小説 ゆうえんち -バキ外伝- 1 (少年チャンピオン・ノベルズ)

格闘漫画グラップラー刃牙の小説版ですね。

漫画のスピンオフとか外伝は他にもいくつかありますが、この"ゆうえんち"はメインのストーリーを追う意味では別に読まなくても大丈夫なお話です。

たとえば”範馬刃牙10.5巻外伝ピクル”は次の11巻に繋がっていますので、お話を追っている人には必要な巻です。紛らわしいですね。”バキ特別編SAGA”も本編の流れに組み込まれている話ですので、お話の空白期間が耐えられない人には必要な巻です。(しかしほとんど話が進まないので微妙ですけど)

でも最大トーナメント編の直後の話である”グラップラー刃牙外伝”は、作者本人が描いたお話とはいえ読んでいなくても後のストーリーが分からなくなるという事はありませんので、そういう意味では読まなくても大丈夫なお話です。

スピンオフの”バキ外伝 疵面”や”バキ外伝 拳刃”なんかは作者が違いますし、そのお話で出てきた要素が本編に反映される可能性もほぼ無いと思われるので、純粋に気が向いたら見てみる感じで大丈夫でしょう。この”ゆうえんち”もそういった作品の一つという事です。

 

 

…....本編に関係ないからってね、別に面白くない分けじゃないンだよ。というよりね、かなり面白い。おれは好きだねこれ。なんていうの?最初の頃の刃牙に感じてた格闘家たちの得体の知れない怪物感とか、不気味さっていうやつ?その感覚がさ、ぶわーって蘇ってきたんだよね。

主人公はさ、ゆうえんちオリジナルのキャラクターでさ、でも一応 愚地克巳の兄って設定でバキ世界との繋がりは持たせているんだよ。でも印象は本編の主人公、範馬刃牙に似ているよね。パラレルワールド刃牙って感じ。ガタイはこっちの方が恵まれているかな?なかなか複雑な生い立ちを持っていて辛い人生を歩んでいるんだけど、健気で素直な好青年なんだ。まぁ、まともな生活を送っていないから不良ではあるんだけどな!

そんでさ、漫画じゃなくて小説だから格闘描写は文字で説明しなくちゃいけないんだけど、これが不思議な事に文字を目で追っているうちにパンチが飛ぶとね、そう、とびっきり強烈な打撃が炸裂した瞬間が脳裏にはっきりと見えるの。挿絵が多めだから同じような攻撃を受けた場面が描かれてたりするんだけどね、それでも肉がひしゃげる様子とかさ、骨が軋む感覚とかさ、体中に響く鈍い音とかがさ、聞こえたり感じたりするんだよ。当然それらは幻だよ。読んでるおれには何も音は届いてないしどこも触られてもいないよ。でもさ、殴られたはずなのに体は何ともないっていう気持ち悪さみたいなのがあるんだよ。面白いよね。

 そう、はったりの利かせ方も大げさで凄い嘘つきで面白いんだよ。桜の木の幹をぎゅーって両腕で抱きしめてさ、もの凄い力で締め付けると何もない枝先に桜の花が咲くって場面があるんだよ。どんだけ力を加えて木の幹を締め付けたからって花が咲くわけないじゃないか。ちょっと考えなくてもあり得ないって思うじゃないか。でも実際に花が咲いちゃってるわけよ。どんな馬鹿力で締め付けて、いったい何を絞り上げたんだこの男は、って得体の知れなさを感じるわけよ。こいつはどんだけ強いんだっていうより、どんな風に強いんだ?っていう思いが出てきてさ、ばかばかしいと思いつつ心の奥ではワクワク感が沸き上がってきちゃってたりするんだよ。

あと、ゲームのルール作りが上手いんだよね。マスター国松っていう空道の達人と主人公が戦う場面があるんだけどさ、あ、空道っていうのは武術の一種でね、手のひらをピタッと手の隙間の空気を抜いて物にくっ付けてると、壁でも人体でもベリって引っぺがしちゃう凶悪な技があるんだよ。当然そんなの現実にはできないよ。でもそういう技を持った敵が出てきちゃったものはしょうがないからさ、とりあえず手のひらをくっ付けられないように避けつつ攻撃の機会を窺わないといけないよね。そんでシャツの袖を使った鞭打攻撃。これは本編でも出てきたから、達人であるマスター国松が使えてもおかしくはないね。これで鞭のようにしなって襲い掛かってくるシャツの袖にも注意しないといけなくなった。加えて爪による根こそぎ肉を抉るような引っ掻き攻撃。愚地独歩や鎬昂昇だって指先を鍛え上げて鋭利な刃物のような威力を持たせているから、この威力があっても珍しい事ではないだろうよ。こんな風にどんどんルールが増えていってさ、それをいかに対処するか悪戦苦闘しつつ主人公が強敵たちとどう渡り合っていくかドキドキしながら見守るのがとにかく熱いんだよね。

この”ゆうえんち”はさ、たぶん本編のストーリーにはほとんど影響を与えることが無いから読まなくったって大丈夫だと思うけどさ、でもよ、このお話の中に出てくる得体の知れない男達がいったいどれだけ強くてどんな戦い方が得意なのかをさ、大の大人二人を並べてどっちが強いんだって比べっこする瞬間がさ、この先楽しみでしょうがないわけよ。

そうそう、この”ゆうえんち”、全然終わる気配が無くて次の巻に続く感じの奴だからそこだけは注意な。

海神の島

海神の島 (単行本)

4日も休日が繋がっていたので電車を使って何となく海を見に行き、家に帰ってきても小説の中で海のお宝を探すロマンに耽る。現実の世界で見れた見渡す限りの広い海岸線も良かったけれど、普通じゃ絶対に見に行けない深海数百メートルに沈む何十年も昔の難破船の荘厳な姿に思いを馳せるのもイイよね…。

本日読みましたのはこちら、おばあちゃんの最後の願いを叶えるために沖縄の秘宝を求めて超個性的な三姉妹が見てて可笑しくなるような足を引っ張り合いをするコメディ(たまに協力プレイ、時にしんみり)、海神の島です。

 お話の主役は沖縄在住の三姉妹で、長女の汀(なぎさ)は誰もを魅了する妖艶な雰囲気と驚異的な行動力を持ち、次女の泉(いずみ)は考古学の博士になるほどの情熱と驚異的な行動力を持ち、三女の澪(みお)は愛くるしいアイドル性と驚異的な行動力を持つ、三者三様の個性を持ちながら根っこの部分はよく似た性格をした方達です。基本的にこの三人がそれぞれの持ち得る力の限りを使って、全力で相手の妨害もしながら、大好きだったオバァの最後のお願いである海神様の秘宝の正体を追い求めます。そして一番最初に見つけた者にはもれなくオバァの財産である広大な土地(年間5億程度の土地代収入あり)が贈与されるのです。さぁ始まるぞ三姉妹の壮大で過酷な宝探し競争が!でもこの争いは決して陰惨だったり哀しくなるようなものではありません。三姉妹がそれぞれ持ち得る能力を駆使して全力でスポーツマンシップなんで知ったこっちゃねぇという勢いで競い合うから楽しいのです。読んでいてケタケタ笑いながらの道中でした。

オバァが三姉妹に探してほしいとお願いした海神の秘宝とは一体何か。それはオバァのお父さんが戦時中に発見しながらも戦火で紛失してしまったという正体不明のお宝。一枚の写真とオバァが昔話してくれた思い出話だけの僅かな手掛かりで、三姉妹と一緒に読者はあーだこーだじわりじわりと秘密に迫っていきます。主に秘密を解くための理屈や歴史的背景は次女が考古学(水中考古学)に詳しいので彼女のストーリーから語られていきました。次女は地道ながら王道な手段で確実に古のお宝に迫っていきます。長女は銀座の超人気店のママという立場を利用し、世界中の金持ちのお客を接客してきた人脈で次女に負けず劣らずの確度でお宝に近づいていきます。もちろん次女が古代の秘宝と言った分野に詳しいのも承知していますので、スパイ行為も欠かしません。お店のホステス2位と3位をけしかけて、周りの人物も篭絡し容赦がありません。三女はちょっとおバカな地下アイドルをやっていますのでお姉ちゃんほどの知識も器量もありませんが、周りのファン(という名のストーカー)たちに助けられて結果的に秘宝の傍まで来ているというダークホースっぷりを随所に見せて、誰が勝者になってもおかしくない激闘を見せてくれました。

 沖縄出身の作者さんだからこその、いろいろ複雑な気持ちが入り混じる沖縄の米軍基地問題を繊細に時には皮肉たっぷりに描いた沖縄の姿は、よく知らない自分のような人間にも分かり易くそして興味深く何より面白く触れることが出来ます。汀、泉、澪がどったんばったん大騒ぎしている沖縄は私の世界の沖縄と地続きで繋がっている、そんな気にさせる面白さがありますね。

毎度おなじみの謎の人物、北崎倫子もちらっと名前が出てくる、久々の池上永一さんのお話を楽しんだ休日でした。

 

【しろくまスタディセッションと学ぶ】英会話できるかな?出来るかな…編

お久しぶりにこんにちは!

実は最近転職しました!今まで英語は完全にペーパーバックを読むためだけの道具として勉強をしていましたが、今度の会社では多少英会話をしないといけないことになりました。まぁTOEICの点数だけなら結構なスコアがありますからね!(最高810点。ただし過去の栄光)。せっかくだから英語力を生かしてお仕事をしようというつもりなのです。

でも哀しいかな。リスニングとリーディングに特化した勉強しかしてこなかった私は会話能力がボロボロなのです。社内でもTOEICの点数を白状すると「え、そんなに高かったの!?」と驚かれるほど。「今まで出来ないふりをしてたんじゃーん!」とか言われちゃうのですが、済みませんマジでそれが私の実力です。

いい加減ちゃんと勉強をしようと思い、2019年9月からTwitterで毎日一文ずつ、英作文した内容を呟いてみようかと勉強がてらtweetしてました。

twitter.com

始めは自己流で適当に英作文していたのですが、2019年10月5日から 個人でオンライン英語教育事業をされているコヤマケイコ先生にお願いして、英文の添削をしてもらう事にしたのです。

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INDEX | Shirokuma Study Session

しろくまスタディセッション🐻11/24コミティア (@ShStSession) | Twitter

10月5日から11月5日までの31日間のtweetは全て、コヤマ先生のアドバイスを貰った英文を載せています。 しかしtweetの140文字以内では到底書ききれない、かなり濃いやり取りのメールが実は裏側では行われています。文法的間違いの指摘や、より伝わりやすい会話例など、もうこれ公開するだけで立派な英語コンテンツになるんじゃないの?というクオリティの高い丁寧な返信をして頂きました。本当にありがとうございます。

今回コヤマ先生から承諾を貰いましたので、申し込んだ一カ月コースをフルに使用した質問メールの内容を31日ぶん公開します。

というわけで私が普段の生活で表現に困った内容を質問した、まさに私の私による私のための専用英語コンテンツが完成いたしました!正直、月額料金より結構サービスしてもらった感じもしなくもない!そのくらいたっぷり質問させてもらったよ!

ちなみに、この英語学習方法は私が「tweetに使う予定の英文を添削して!」とお願いしてやり取りしたものですので、しろくまスタディセッションでの英語学習では必ずこうしなきゃいけないという 形式は無いと思います(多分)。割と自由な感じで学習方針を組み立てられますので、よく分からなかったら「どう英語を勉強したらいい?」って相談するところからコヤマ先生に聞いてみると良いかと思いますね。オリジナルの英語教科書も用意されてますので、自分で何か準備しなくても何とかなるかもしれません。…って教科書500円って安いな!

まだ英会話の能力は発展途上ですが、これだけ英作文した分だけ力はついたかな?ここで日記はいったん終わりですが、あれこれ英語の勉強は続けていきますわよ!

とりあえず はてなダイアリーから移動

はてなダイアリーがサービス終了という事で、とりあえずはてなブログにデータを移行しました。

ある程度自動で移行したは良いものの、過去記事の参照・リンク先などで手作業で弄らないといけないものがやっぱりあるので、放置気味。

スマンね、更新止まってますのよ。

英語でゲーム「名探偵ピカチュウ」

A bolt of brilliance!
(ピカっとひらめいた!)


ニンテンドー3DSからこんにちは。
2016年配信の「名探偵ピカチュウ 〜新コンビ誕生〜」では日本語でしかプレイできませんでしたが、大幅なシナリオ追加が行われた2018年版の「名探偵ピカチュウ」では、音声に日本語/英語のどちらかが選べるようになり字幕も8言語対応になりました。
この2作品は1章から3章までは同じ内容なため(一応前作クリア済みの人のために4章からプレイは出来る)、せっかくだから英語の勉強がてら英語音声/英語字幕で最初からプレイし直してました。作品の間隔が2年も開いてますんで、内容も曖昧になってますしね。




というわけで名探偵ピカチュウ改め「Detective Pikachu」のプレイ開始です。英語で勉強出来るかな〜?
このゲームの一番の特徴と言いましたら、やっぱりおっさん声で喋るピカチュウでしょうね。ゲームのPVが発表された時も、このかわいくないピカチュウインパクトで心を鷲掴みされた方もいますでしょう。ええ、私の事です。
ですのでせっかく声が魅力なのに音声を変えてしまったら違和感が出てしまうのでは?と不安がよぎりますが、もともとのおっさん声で喋るピカチュウ自体が最初から違和感MAXなので、英語音声でも大して問題ではありませんでした。英語音声の方がより渋いおっさんぽくなってます。




失踪した父親を捜すため、父親の仕事仲間が所長を務める探偵事務所を訪れるティムくん。その道中で一般市民とポケモンとのトラブルに遭遇し、そこでティムくんにだけ言葉が伝わる謎のおっさんピカチュウと出合うのです。自らを名探偵と名乗るおっさんピカチュウと協力して、父親の失踪の謎とそこに隠された陰謀を追求していく事になるのでした。
ゲームは様々な謎を走り回って解決するアドベンチャー形式の内容です。事件現場に向かってそこでいろんな人物に聞き込み調査を行います。ティムくん自身は普通の青年ですが、他の探偵や警察にはないアドバンテージとして、相棒のおっさんピカチュウポケモンに対して聞き込み調査可能な事が挙げられます。事件の目撃者は誰もいないかもしれないが、目撃ポケモンなら直ぐ傍にいたりします。警察の捜査が難航しているのを尻目に、人とポケモンの2方向からの捜査でいち早く事件の真相に辿り着く事すら可能になるのです。





ポケモンも今や20年も続く息の長いコンテンツですから、昔のポケモンしか知らない私にとって見たこともないポケモンも結構います。ポケモンの生態や特性(電気タイプとか草タイプとか)も事件解決の手掛かりになったりしますので、ポケモンに慣れている人は有利に捜査を進めることが出来るでしょう。そうでない人も、説明はゲーム中でちゃんとされますので問題なく進むことが出来ます。ただし英文がちゃんと読めればだけどな。しかもポケモンの名前も英語になると全然違ってたりして、151匹分しかない私のポケモン知識がほぼゴミになりました。ちなみに画像のブニャットはPuruglyって言うらしいですよ奥さん。




英語音声を選ぶことによって登場人物の音声は英語になりますが、基本はムービー中しか喋りませんのでゲームプレイ中はテキストを読むことがほとんどになります。ムービーは結構細かく入るとはいえ、英語の勉強としては全編フルボイスだったほうがポイントは高かったですね。ただテキストの方はそこそこありますので、英文の量は読み応えは十分あります。まったく参考にならないと思いますけど、私はクリアまで4カ月かかりました。うん、放置した時間の方が多いよ。1章クリアするだけでも英語だと体力使うから休日じゃないと無理…。
音声/字幕の切り替えはタイトル画面に戻ってからじゃないと出来ませんので、勉強用としてはほとんど役に立ちません。一度設定したら根性で英文を解読するしかありません。ゲームの対象年齢は低めですが、やはりそこはネイティブな英文ですから理解が難しい表現も結構出てきて苦労はしました。というか何言ってんだ?みたいな感じで流した部分も多いです。いいんだ、雰囲気雰囲気!
例えば"You can say that again."って表現がゲーム中で出てくるんですけど、訳としては「その通りだね」ってなって、ただ単に単語だけ知ってても会話の内容が繋がらなくて「?」ってなります。この辺は地道に理解していくしかありませんね。
謎解き自体も日本語でプレイする分には簡単でも、英語でプレイすると難易度がアップしますので、ちょうど良い感じで頭を使うことが出来ます。犯人に繋がる証言はどれ?とか、犯行に使われた道具は何?みたいな問題が出てきますので、少しは英文を読まないと解決出来ませんからね。あとはムービー中の英語字幕で少し遅れる箇所がちょこっとあったので、その辺りはマイナスポイントでしょうか。まあ、そもそもムービーの再生速度でリスニングしたり英語を読んだりすること自体がハードル高いですけど。



日本語音声のピカチュウがナイス過ぎて、このままプレイしたいと思ってしまうのが悩みどころ。登場人物たちは欧米人っぽい容姿をしていますので英語音声にしても違和感はないんですよね。ピカチュウ自体は日本語だろうが英語だろうがおっさんボイスなので違和感はしっかりあります。なんだ問題ないじゃないか。
おっさんボイスのピカチュウが普通のピカチュウの振りをするシーンは、半端なくキモくて笑いました。

金色機械

金色機械 (文春文庫)


どこまでも風が吹き抜けるような茫漠たる心地よさと、薄暗くも心落ち着かせる静けさ、そして物事が過ぎ去っていく寂しさ。
1700年後半の江戸時代、親に捨てられて野盗の仲間入りをして生き延びた熊悟朗と、両親が斬捨てられたのち人格者の義父のもとで育った遥香。この二人は親子ほども年は離れていますが、遥香の殺された両親や熊悟朗が所属している野盗のならず者たちはその人生の中で度々関わり合っていて、先代より続く奇妙な因縁を持っています。様々な想いの人々が織りなすドラマを淡々と描写するこのお話は、時に心を熱くするような荒々しい場面があれど、いつだって別れの物悲しさを感じさせる作りとなっていました。
そして徳川将軍の太平の世の中、熊悟朗や遥香が関わる大勢の人の中にひときわ異彩を放つ金色の人物がひとりいます。モノノ怪や妖怪と同じ類で人知を超えた怪異をもたらし時に人々の運命を左右するそれは、月から来たという超ハイテクマシーンの通称”金色様”で、なんかイメージ的にスターウォーズC-3POが侍や浪人に交じっているような物凄い違和感を醸し出しています。なんだかワクワクしてきますね。
という感じで本日はこちら「金色機械」からお送りします。
江戸時代を舞台にしたお話に人知を超えた幽霊とか妖怪とか出てきても変じゃないんだから、人知を超えた超技術のロボットが出てきても別によくない?とばかりにお話に紛れ込む金色様が独特の味わいを生み出しているこのお話。むやみやたらに化け物とかカラクリだとか変なレッテルを張らず、そんなことは重要じゃないんだと金色様という一人の登場人物として熊悟朗や遥香の因縁に深く関わってくるのです。この余計な話に脱線しないバランス感覚、塩梅がとても上手く、非常に私好みのお話となっていて楽しかったです。
あくまでメインは人々が織りなすドラマであり、少年時代の熊悟朗が経験する盗賊としての人殺しや集落の少女との淡い思い出に心を揺り動かされたり、遥香の復讐への決意と恋模様にやきもきしたりと、人々の意思をもって生きる姿を眺めるのがこのお話の面白いところなのです。悪党の住まいから逃げ出してきた美女を匿ってそれが縁で妻にするとか、なにそのうらやまし過ぎなシチュエーションみたいな、夢のあるお話も混ぜ込んでくれているあたりがポイント高いです。しかも男の方が遠慮して美女を紳士的に扱いすぎたせいで、美女の方から焦れて襲いに行ってるよねこれ。追加点をあげましょう。
金色様はそんな人々のドラマをサポートする役目であり、めんどくさそうだったり時間がかかりそうなことを一気に推し進めてくれる舞台装置的存在です。人の噂を超高性能なマイクで集め、立ち塞がる悪党どもを打ちのめし、謎や障害物を次々と取り除いて熊悟朗や遥香のお話を前進させるのです。そんなロボットの金色様はいったいどこから来たのか、何が目的なのか、誰が作ったのか、今回は金色様のお話ではないのでそれらは重要ではないのです。
人々の出会いと別れに喜びと涙を感じるとき、気が付くとその”人々”の中にロボットの金色様が自然と含まれているような、ちょっと不思議で魅せられるお話でした。

マルドゥック・アノニマス 1・2・3

マルドゥック・アノニマス 1 (ハヤカワ文庫JA) マルドゥック・アノニマス 2 (ハヤカワ文庫JA) マルドゥック・アノニマス3 (ハヤカワ文庫JA)


マルドゥック・スクランブル(全3冊)、マルドゥック・ヴェロシティ(全3冊)に続く、シリーズ3作目の本作。
近未来の架空都市<マルドゥック・シティ>を舞台に、最先端の科学技術で嫌というほど武装強化された変態どもが起こす凶悪犯罪と、それに立ち向かうイースターオフィスの捜査官たちの日常を綴ったSFアクション小説です。日常ってのは、暗殺、脅迫、誘拐、拷問、監禁とかそんな感じのやつ。ダークですね。狂ってますね。
こちらのお話は前2作の続編となっておりますので事前に6冊ほど読んでおかないといけないという少しばかり高いハードルがありますが、それでも私はグイグイ読み進めてしまうほど、どれも続きが気になる面白さでしたね。というわけで注意する点としましては、マルドゥック・アノニマス3では全然話が終わってなくて「続く!」となっていた事でしょうか。
Σ(°д°lll)ウソー!?
過去2作品とも3冊ピッタリで終わっていたため今回も同じだと予想し、アノニマスの1巻(2016年)が発売されても「どうせ読んだら面白くて続きが気になって悶えるんでしょ!」となることが分かりきっていたためじっくり待つことはや2年。2018年の3月にとうとう待ちに待った3冊目が発売されて私の忍耐が完全勝利したかと思ったのですが、まさかの、まさかの未完結!結局のところ「続きがー続きがー」と悶えることになりましたとさ。ネタバレしないよう何の情報も仕入れていなくて、思い込みで行動したのが敗因さ。(しかし3冊目で終わりと考えていた人はいっぱいいるはず)
もう読んでしまった事はしょうがないとして、現時点の印象としてはとっても面白かったです。(悶えながら)
このマルドゥック・アノニマスの主役は、シリーズを通して重要なサブキャラだった金色ネズミのウフコックです。非常に多くの登場人物たちが関わってくるのもこのシリーズではよくあることですが、その中でも取り分けウフコックの目と思考を通して語られるお話が大部分を占められていました。一作目のマルドゥック・スクランブルで主人公だったバロットさんは健やかに社会復帰を果たし、学生生活をエンジョイしている様子が時折語られるも主軸のお話からは完全に外れていましたね。一作目も楽しんだ私としましてはバロットさんがあんまり活躍しないのが寂しくもありますが、逆に活躍するってことは凶悪犯罪にかかわることになるので平和に暮らしている証拠であると安心する思いもあります。
バロットさんが活躍した一作目は、不幸を装った事故に巻き込まれたバロットさんが最先端の科学治療で一命をとりとめ、さらにとどめを刺そうと襲ってくる最先端技術で強化されたとびっきりの変態どもと対決するお話でした。二作目は一作目でラスボスとして立ちはだかったボイルドさんの過去のお話で、仲間の超技術武装集団と敵の最先端技術の変態集団と全面対決するお話でした。三作目のお話は時系列的には最新となっておりまして、シリーズで同じみの強化改造手術を施された登場人物が何十人と登場して戦い合う、バトルロワイヤルなお話となっていました。敵でも味方でもない怪物たちもガンガン争い合って、もーめちゃくちゃです。こんな収拾のつかないようなお話で面白くなるのかと思いましたが、ここで敵側の主人公ともいうべき「ハンター」という人物が自分も含めて大量に生み出された怪物たちの作られた目的や正体不明の製作者について追い求めるよう行動し、謎を次第に解き明かしていくことによって先が気になる作りになっていました。謎を解いていくついでにハンターさんは他の強化された人間たちをボコったり懐柔したりしながら仲間を増やしていき、主人公たちの敵対勢力として強力にもなっていくので、話に引き込まれてグイグイ読み進めていると気付いたころにはすんごい悪役も完成しているって寸法です。
その凄い悪役をそばでずっと観察し報告し続けるのが、本作の主人公ウフコック。シリーズの登場人物の中でも屈指のチート能力、あらゆる武器や道具に変身して複製できる能力を使って潜入捜査を行うのです。ほぼ読者と同じような神の目線で敵情報を知りうるウフコックの様子は、もはや笑うしかないってくらいの爽快感すらあります。いいですよね、チート能力の爽快感と、それでもまだ上手の悪役の緊張感。
物語の冒頭でガス室に閉じ込められて絶望しているウフコックが描写されていましたが、実際のところガス噴霧自体は割と余裕で耐えて生活に支障がなさそうな辺りが判明したときは少し笑えました。
そして人生最高の時間と言わんばかりの楽しそうな様子がところどころ描写されていたバロットさんは、この後死ぬ前振りじゃないこれ?(作者的に)との疑惑を個人的に疑いながらも3冊目までは無事にフィニッシュ。4冊目以降で本格的に参戦の様子を見せながら、お話はまだまだ続きそうな感じで終わりました。
まだまだ途中の物語ですが、ひとまず3冊目で区切りとしては満足できる感じにはなっていますでしょうかね。何故かガス室に閉じ込められているウフコックで始まり、どういった経緯でこんなことになったのか、結局最後はどうなったのかまでを知ることが出来て終わりますので。
あとは…なんだ、年単位で待つことを覚悟すれば今できることは終わりだな!しかし二作目のヴェロシティから10年(現実の時間で)経ってるって本当ですかね。時の流れが信じらんねぇ…。