金色機械

金色機械 (文春文庫)


どこまでも風が吹き抜けるような茫漠たる心地よさと、薄暗くも心落ち着かせる静けさ、そして物事が過ぎ去っていく寂しさ。
1700年後半の江戸時代、親に捨てられて野盗の仲間入りをして生き延びた熊悟朗と、両親が斬捨てられたのち人格者の義父のもとで育った遥香。この二人は親子ほども年は離れていますが、遥香の殺された両親や熊悟朗が所属している野盗のならず者たちはその人生の中で度々関わり合っていて、先代より続く奇妙な因縁を持っています。様々な想いの人々が織りなすドラマを淡々と描写するこのお話は、時に心を熱くするような荒々しい場面があれど、いつだって別れの物悲しさを感じさせる作りとなっていました。
そして徳川将軍の太平の世の中、熊悟朗や遥香が関わる大勢の人の中にひときわ異彩を放つ金色の人物がひとりいます。モノノ怪や妖怪と同じ類で人知を超えた怪異をもたらし時に人々の運命を左右するそれは、月から来たという超ハイテクマシーンの通称”金色様”で、なんかイメージ的にスターウォーズC-3POが侍や浪人に交じっているような物凄い違和感を醸し出しています。なんだかワクワクしてきますね。
という感じで本日はこちら「金色機械」からお送りします。
江戸時代を舞台にしたお話に人知を超えた幽霊とか妖怪とか出てきても変じゃないんだから、人知を超えた超技術のロボットが出てきても別によくない?とばかりにお話に紛れ込む金色様が独特の味わいを生み出しているこのお話。むやみやたらに化け物とかカラクリだとか変なレッテルを張らず、そんなことは重要じゃないんだと金色様という一人の登場人物として熊悟朗や遥香の因縁に深く関わってくるのです。この余計な話に脱線しないバランス感覚、塩梅がとても上手く、非常に私好みのお話となっていて楽しかったです。
あくまでメインは人々が織りなすドラマであり、少年時代の熊悟朗が経験する盗賊としての人殺しや集落の少女との淡い思い出に心を揺り動かされたり、遥香の復讐への決意と恋模様にやきもきしたりと、人々の意思をもって生きる姿を眺めるのがこのお話の面白いところなのです。悪党の住まいから逃げ出してきた美女を匿ってそれが縁で妻にするとか、なにそのうらやまし過ぎなシチュエーションみたいな、夢のあるお話も混ぜ込んでくれているあたりがポイント高いです。しかも男の方が遠慮して美女を紳士的に扱いすぎたせいで、美女の方から焦れて襲いに行ってるよねこれ。追加点をあげましょう。
金色様はそんな人々のドラマをサポートする役目であり、めんどくさそうだったり時間がかかりそうなことを一気に推し進めてくれる舞台装置的存在です。人の噂を超高性能なマイクで集め、立ち塞がる悪党どもを打ちのめし、謎や障害物を次々と取り除いて熊悟朗や遥香のお話を前進させるのです。そんなロボットの金色様はいったいどこから来たのか、何が目的なのか、誰が作ったのか、今回は金色様のお話ではないのでそれらは重要ではないのです。
人々の出会いと別れに喜びと涙を感じるとき、気が付くとその”人々”の中にロボットの金色様が自然と含まれているような、ちょっと不思議で魅せられるお話でした。