海神の島

海神の島 (単行本)

4日も休日が繋がっていたので電車を使って何となく海を見に行き、家に帰ってきても小説の中で海のお宝を探すロマンに耽る。現実の世界で見れた見渡す限りの広い海岸線も良かったけれど、普通じゃ絶対に見に行けない深海数百メートルに沈む何十年も昔の難破船の荘厳な姿に思いを馳せるのもイイよね…。

本日読みましたのはこちら、おばあちゃんの最後の願いを叶えるために沖縄の秘宝を求めて超個性的な三姉妹が見てて可笑しくなるような足を引っ張り合いをするコメディ(たまに協力プレイ、時にしんみり)、海神の島です。

 お話の主役は沖縄在住の三姉妹で、長女の汀(なぎさ)は誰もを魅了する妖艶な雰囲気と驚異的な行動力を持ち、次女の泉(いずみ)は考古学の博士になるほどの情熱と驚異的な行動力を持ち、三女の澪(みお)は愛くるしいアイドル性と驚異的な行動力を持つ、三者三様の個性を持ちながら根っこの部分はよく似た性格をした方達です。基本的にこの三人がそれぞれの持ち得る力の限りを使って、全力で相手の妨害もしながら、大好きだったオバァの最後のお願いである海神様の秘宝の正体を追い求めます。そして一番最初に見つけた者にはもれなくオバァの財産である広大な土地(年間5億程度の土地代収入あり)が贈与されるのです。さぁ始まるぞ三姉妹の壮大で過酷な宝探し競争が!でもこの争いは決して陰惨だったり哀しくなるようなものではありません。三姉妹がそれぞれ持ち得る能力を駆使して全力でスポーツマンシップなんで知ったこっちゃねぇという勢いで競い合うから楽しいのです。読んでいてケタケタ笑いながらの道中でした。

オバァが三姉妹に探してほしいとお願いした海神の秘宝とは一体何か。それはオバァのお父さんが戦時中に発見しながらも戦火で紛失してしまったという正体不明のお宝。一枚の写真とオバァが昔話してくれた思い出話だけの僅かな手掛かりで、三姉妹と一緒に読者はあーだこーだじわりじわりと秘密に迫っていきます。主に秘密を解くための理屈や歴史的背景は次女が考古学(水中考古学)に詳しいので彼女のストーリーから語られていきました。次女は地道ながら王道な手段で確実に古のお宝に迫っていきます。長女は銀座の超人気店のママという立場を利用し、世界中の金持ちのお客を接客してきた人脈で次女に負けず劣らずの確度でお宝に近づいていきます。もちろん次女が古代の秘宝と言った分野に詳しいのも承知していますので、スパイ行為も欠かしません。お店のホステス2位と3位をけしかけて、周りの人物も篭絡し容赦がありません。三女はちょっとおバカな地下アイドルをやっていますのでお姉ちゃんほどの知識も器量もありませんが、周りのファン(という名のストーカー)たちに助けられて結果的に秘宝の傍まで来ているというダークホースっぷりを随所に見せて、誰が勝者になってもおかしくない激闘を見せてくれました。

 沖縄出身の作者さんだからこその、いろいろ複雑な気持ちが入り混じる沖縄の米軍基地問題を繊細に時には皮肉たっぷりに描いた沖縄の姿は、よく知らない自分のような人間にも分かり易くそして興味深く何より面白く触れることが出来ます。汀、泉、澪がどったんばったん大騒ぎしている沖縄は私の世界の沖縄と地続きで繋がっている、そんな気にさせる面白さがありますね。

毎度おなじみの謎の人物、北崎倫子もちらっと名前が出てくる、久々の池上永一さんのお話を楽しんだ休日でした。