【夢枕獏】小説 ゆうえんち -バキ外伝- 1

小説 ゆうえんち -バキ外伝- 1 (少年チャンピオン・ノベルズ)

格闘漫画グラップラー刃牙の小説版ですね。

漫画のスピンオフとか外伝は他にもいくつかありますが、この"ゆうえんち"はメインのストーリーを追う意味では別に読まなくても大丈夫なお話です。

たとえば”範馬刃牙10.5巻外伝ピクル”は次の11巻に繋がっていますので、お話を追っている人には必要な巻です。紛らわしいですね。”バキ特別編SAGA”も本編の流れに組み込まれている話ですので、お話の空白期間が耐えられない人には必要な巻です。(しかしほとんど話が進まないので微妙ですけど)

でも最大トーナメント編の直後の話である”グラップラー刃牙外伝”は、作者本人が描いたお話とはいえ読んでいなくても後のストーリーが分からなくなるという事はありませんので、そういう意味では読まなくても大丈夫なお話です。

スピンオフの”バキ外伝 疵面”や”バキ外伝 拳刃”なんかは作者が違いますし、そのお話で出てきた要素が本編に反映される可能性もほぼ無いと思われるので、純粋に気が向いたら見てみる感じで大丈夫でしょう。この”ゆうえんち”もそういった作品の一つという事です。

 

 

…....本編に関係ないからってね、別に面白くない分けじゃないンだよ。というよりね、かなり面白い。おれは好きだねこれ。なんていうの?最初の頃の刃牙に感じてた格闘家たちの得体の知れない怪物感とか、不気味さっていうやつ?その感覚がさ、ぶわーって蘇ってきたんだよね。

主人公はさ、ゆうえんちオリジナルのキャラクターでさ、でも一応 愚地克巳の兄って設定でバキ世界との繋がりは持たせているんだよ。でも印象は本編の主人公、範馬刃牙に似ているよね。パラレルワールド刃牙って感じ。ガタイはこっちの方が恵まれているかな?なかなか複雑な生い立ちを持っていて辛い人生を歩んでいるんだけど、健気で素直な好青年なんだ。まぁ、まともな生活を送っていないから不良ではあるんだけどな!

そんでさ、漫画じゃなくて小説だから格闘描写は文字で説明しなくちゃいけないんだけど、これが不思議な事に文字を目で追っているうちにパンチが飛ぶとね、そう、とびっきり強烈な打撃が炸裂した瞬間が脳裏にはっきりと見えるの。挿絵が多めだから同じような攻撃を受けた場面が描かれてたりするんだけどね、それでも肉がひしゃげる様子とかさ、骨が軋む感覚とかさ、体中に響く鈍い音とかがさ、聞こえたり感じたりするんだよ。当然それらは幻だよ。読んでるおれには何も音は届いてないしどこも触られてもいないよ。でもさ、殴られたはずなのに体は何ともないっていう気持ち悪さみたいなのがあるんだよ。面白いよね。

 そう、はったりの利かせ方も大げさで凄い嘘つきで面白いんだよ。桜の木の幹をぎゅーって両腕で抱きしめてさ、もの凄い力で締め付けると何もない枝先に桜の花が咲くって場面があるんだよ。どんだけ力を加えて木の幹を締め付けたからって花が咲くわけないじゃないか。ちょっと考えなくてもあり得ないって思うじゃないか。でも実際に花が咲いちゃってるわけよ。どんな馬鹿力で締め付けて、いったい何を絞り上げたんだこの男は、って得体の知れなさを感じるわけよ。こいつはどんだけ強いんだっていうより、どんな風に強いんだ?っていう思いが出てきてさ、ばかばかしいと思いつつ心の奥ではワクワク感が沸き上がってきちゃってたりするんだよ。

あと、ゲームのルール作りが上手いんだよね。マスター国松っていう空道の達人と主人公が戦う場面があるんだけどさ、あ、空道っていうのは武術の一種でね、手のひらをピタッと手の隙間の空気を抜いて物にくっ付けてると、壁でも人体でもベリって引っぺがしちゃう凶悪な技があるんだよ。当然そんなの現実にはできないよ。でもそういう技を持った敵が出てきちゃったものはしょうがないからさ、とりあえず手のひらをくっ付けられないように避けつつ攻撃の機会を窺わないといけないよね。そんでシャツの袖を使った鞭打攻撃。これは本編でも出てきたから、達人であるマスター国松が使えてもおかしくはないね。これで鞭のようにしなって襲い掛かってくるシャツの袖にも注意しないといけなくなった。加えて爪による根こそぎ肉を抉るような引っ掻き攻撃。愚地独歩や鎬昂昇だって指先を鍛え上げて鋭利な刃物のような威力を持たせているから、この威力があっても珍しい事ではないだろうよ。こんな風にどんどんルールが増えていってさ、それをいかに対処するか悪戦苦闘しつつ主人公が強敵たちとどう渡り合っていくかドキドキしながら見守るのがとにかく熱いんだよね。

この”ゆうえんち”はさ、たぶん本編のストーリーにはほとんど影響を与えることが無いから読まなくったって大丈夫だと思うけどさ、でもよ、このお話の中に出てくる得体の知れない男達がいったいどれだけ強くてどんな戦い方が得意なのかをさ、大の大人二人を並べてどっちが強いんだって比べっこする瞬間がさ、この先楽しみでしょうがないわけよ。

そうそう、この”ゆうえんち”、全然終わる気配が無くて次の巻に続く感じの奴だからそこだけは注意な。