【上橋菜穂子】流れ行く者 守り人短編集

流れ行く者: 守り人短編集 (新潮文庫)



精霊の守り人シリーズを読み終わりましたので、外伝へと手を伸ばすことにします。もうちょっとだけ続くんじゃよ。
そんな感じで短編集「流れ行く者」よりお送りしていきます。バルサさんがもっと幼かったころの出来事が綴られたお話です。
本書の中には4つのお話が入っておりまして、逃亡生活真っ只中だった13歳頃のバルサさんの様子がそれぞれに描かれています。「バルサちゃん」というには時既に遅しの流れ者生活ですっかり歪みきったバルサさんでございましたが、本編の完璧超人ではない頼り無さがあるバルサさんが見ていて新鮮でした。シリーズが始まったころに既にバルサさんは完成されきってましたからね、仕事に慣れて機械のようにルーチンワークをこなすことはあっても、初めての経験であたふたするなんて場面は期待は出来ませんでしたからね。それに比べて小さいバルサさんは叱られもするし、川遊びに出かけたりもするしで、本編で格好付けすぎだったバルサさんのお茶目な一面がようやく見れることになります。
最初の場面では幼馴染のタンダくん(この人はくん付けが良く似合います)をメインの語り手に据えまして、村生活の苦労話とはずれに住んでいる奇妙なバルサさん親子の一端が垣間見れます。その後の短編も続き物になっていまして、それも時期的にさほど離れていませんでしたので、幼いころのバルサさんの一時期がちょっとだけ見れた、そんな印象の短編集となっていました。
本編では思い出話の中にしか出てこなかったジグロさんの生きている姿も見れましたが、この人は全然印象通りというか面白みの無いオッサンだな!実は冗談の好きなオッサンだったとか一切無かったし!そりゃバルサさんもひねくれてあんな性格にもなりますわな…。もうね、ボクはね、対処しきれない不測の事態に直面したときに現れる人間性こそがその人の本性であり人間の魅力であると思うのですよ。つまり気になる人が出来ちゃったりしてドギマギするバルサさんとか、ふてくされて泣き出すバルサさんとか、欲望に目がくらんで大はしゃぎするバルサさんとかを見てみたいわけですよ。そんなシチュエーションにバルサさんを叩き落してみたいわけですよ。くそぅ、あの心の鉄仮面を砕き割る猛者はどこかにいないものか。近いところにいるのはタンダさんですが、頼りなさ過ぎる…!そしてバルサさんが強すぎる!
本編と変わらぬテイストが安心感をもたらすと共に、若干の物足りなさも感じる気もする今回のお話。そういえばジグロさんの追っ手に関するエピソードって、いつかがっつり来るものだと思っていましたが小説ではほとんど描かれないのねとようやく思った。