【竹内雄紀】悠木まどかは神かもしれない

悠木まどかは神かもしれない (新潮文庫)



変なタイトルとマンガチックな表紙の本が新潮文庫の棚にあって、気分ははぐれライトノベル発見みたいなノリでレジに持って行った。あんまり分厚くなくて気楽に読めそうだったし。面白さはあまり期待し過ぎても報われなさそうだから、その辺は深く考えないで。
素直に面白かったです。ゴメンね。
そんな感じで読みましたのはコチラの本「悠木まどかは神かもしれない」。本書裏の紹介文で胸キュンおバカミステリの大大大傑作とか妙なプッシュのされ方をしていまして、興味が惹かれるんだかむしろ気持ちが引くんだかの微妙な葛藤を覚えなくもない第一印象でございます。だけど作者さんも作品も悪くはないはず、犯人はきっと編集者。
お話の主人公は有名学校への進学を目指して塾に通っている男の子です。読む前には受験生だから高校生くらいかなという漠然とした印象を持っていたのですが、実在する有名校の名前が出てきて「あら中学生?」なんて勘違いしていたことに気付いたのも束の間、実際は小学5年生だったというだいぶ若い主人公くんでした。ちゅ、中学受験…!!
この男の子、小田桐くんとその塾友達の賑やかな日常とちょっとした謎を綴った、青春劇のようなミステリーのようなそうでもないようなお話です。日常の謎系ミステリーなんてものにこのお話が分類されるなら、私はこんなに読んでて自分の感覚でしっくりくる日常系ミステリーは初めてです。出てくる謎が本当に些細なことで、例えば誰かの弁当が無くなったとか特定の科目のテストはきまって受けないで帰る生徒がいるだとか、日常的にあり得そうな謎が解決する間もなくひょこひょこと出てきます。別にほっといてもよさそうな適当さ加減ですが、むしろ現実ではそんな程度のものを解決するために毎日あくせくやっている事の方が多いですから、気持ち的にもすんなり受け入れることが出来ますね。でも些細でも分からないものは分からないしスッキリしないから、そんな謎でも解決してくれるなら興味が惹かれちゃうわけですよ。
序盤からコメディのようなギャグのようなテンションの高い文章で攻めてきまして、クラスメイトの口づけたストローを眺めてドギマギする様子とか乱れ飛ぶオヤジギャグとかを見てると妙に感性が古いような気持ちが湧くのは何故?と思いましたが気にしない。大事なのは塾と勉強ばかりの主人公くんと塾友達の中に、タイトルにもなっている悠木まどかという、クラスメイトにいろいろちょっかいをかける愉快な人物がいるということです。彼女が男女分け隔てなくクラスメイトにちょっかいをかけるから、毎日が塾と勉強だけでなくちょっとした事件や謎が出てくるのです。主人公くんだってちょっとドキドキしちゃったりすんです。クラスメイトが次々と怪しげな探偵を名乗って謎に取りかかったりするんです。そして推理で解決しない。(しないのかよ!というツッコミも含めて、日常の適当さ加減が個人的に好きです。毎日ってそんなもんさ)
ラストは妙にしんみりというか爽やかになりまして、道中ずっと阿呆なことばかり書いていた分素直に受け入れるのも癪な気がしましたが、やっぱり素直にしんみりすることにしました。不器用でダサダサのイモイモは嫌いじゃないですもん。そして終盤で主人公くんに問い詰められて目が泳ぐ悠木まどかさんを見て、日常の小さい謎がまた一つ解決します。そりゃそうだ、じゃなかったら主人公くん目線のお話であんなに登場する機会があるわけないよねと小さくニヤリ。やった、ミステリが苦手なボクでも謎がいっこ解けた!