【中田永一】吉祥寺の朝日奈くん

吉祥寺の朝日奈くん (祥伝社文庫)

好きな本 ぼしゅう12月のコメントより。
>恋愛小説ですが特に甘いわけではなく、また、ミステリーとも読める面白さがあります。5つのお話が収められている短編集で、どのお話もさくっと読みやすく、それでいて個性的で心に残ります。ユーモアのある、ほっこりする文章が素敵です。実はこの本、乙一さんという有名な作家さんが覆面で書いたものだそうで、この作品を読むと他の乙一さんの作品も読みたくなるというオマケもあったりなかったり(私はありました(笑))。

くるくるさん、おすすめありがとうございます。2冊ご紹介いただきましたので、今回は「吉祥寺の朝日奈くん」を手に取ってみることにします。寒さも一段と厳しくなってきているこの12月末、クリスマスも間近だっていうのに特に予定もないこの私に恋愛小説を奨めるとは面白いことをするではあーりませんかと言うだけ言ってみますが、実際の所は何とも思っていませんので気になさらないでください。この現代社会に晒されて冷え切った心…、ちょっとやそっとの揺さぶりで溶けだしたりはしないぜ?…クックック。(訳:誰か暖めてください)
作者の中田永一とは乙一さんの別名義だとの情報も頂きまして、へーそれは知らなかったと新しい知識を一つゲットです。乙一さんの作品でしたら昔何作か読んだことがありますので、この「吉祥寺の朝日奈くん」を読んでみると雰囲気が分かるところあるねと知ったかぶれたりします。「うるさいおなか」で使っていたぴぴるぴるぴるぴぴるぴーという擬音は、作者さんもライトノベルで本を出していたから同業者の親しみで登場させたのかしら?とちょっとしたところで気付くものもあったり。でも一発ギャグみたいな使い方をするには、撲殺天使ドクロちゃんはその…もうチョイスが古くなってます…。
さて恋愛小説とのことですが、特に甘いわけでもないとのことなので私も特に身構えるようなこともないでしょう。5つのお話が入った短編集形式でして、どんなお話になっているのかしら?とさっそく読んでみることにします。
■「交換日記始めました!」
高校生の男女がやり取りしている交換日記をそのままの形式で載せたような、ちょっと変わった構成で進んでいくお話です。ちょっとやそっとで俺のハートは揺さぶられないぜ!と意気揚々と挑んでいった私ですが、開始3ページで早くも甘さに悶える。卑怯だよこんなの!秘密の日記は二人だけの秘密にして見せつけるのは止めてクダサーイ!と虚しく訴えつつ先を見守ると、あくまで一冊のノートに書かれたという日記という形式で、様々な人と時間を経由してお話は思いがけない方向へと転がっていきました。乙一さんはミステリーも書く作家さんなので、読者をワクワクさせる仕掛けをしっかり用意してくれているんだなと思ったり。不思議な感じの結末ですが、え、もしかして続きを私が書くの?これって?えーと、ブログでこの本を教えて頂いて買ったのですが、いつの間にか日記帳じゃなくて本になって出版されてるんですが何があったんでしょうか…
■「ラクガキをめぐる冒険」
前のお話で村上春樹さんの話題が出てましたので、どうしてもタイトルで羊をめぐる冒険を連想するのですが、読んだことがないのでヤベー元ネタわかんないかもしれない!とハラハラするだけでした。でもそんなの関係ないね。学校で机に落書きがされるというイジメをきっかけに、何人かのクラスメイトが数年の時間を経て意外な関わりを見せるというミステリーは十分面白いです。もぅやり過ぎだよバカぁ!ってくらい出来過ぎた展開が物語ならではの楽しさですね。
■「三角形はこわさないでおく」
今まで主人公は女性でしたけど、今回でようやく男の主人公が登場。カッコよくて性格がキツめの男子クラスメイトと友達になった、少々無骨な主人公くんの友情話です。本能の赴くままにシャウトするなら「男同士の友情だよぅ!徹底的に純粋な相手への思いやりと優しさが染み入るよぅ!」「小山内さん可愛いよぅ!賢くて強さも持ってる女の子だよぅ!」という感じですが、男性の作家さんが書く恋愛模様でカッコよさを極致まで追い求めた面白さがあります。女性作家さんが書いた恋愛小説も読んだことがありますが、男心のファンタジーをここまで盛れる人は1000人集まってもいるかどうか怪しい(笑)レベルではないでしょうか。すごかったです。面白いものが見れました。
■「うるさいおなか」
またまた女性主人公に逆戻り。おなかがぐるぐるなってしまうのは生理現象だからね、しかたないよねと言ってもまぁ何の慰めにもならない、おなかが良く鳴る女子高生のお話。別に平常時でもお腹が鳴るときは鳴りますけど「まだお腹へってるの?」って聞かれるのが辛いのはよく分かります。くしゃみをして「風邪ひいてるの?」と聞かれるのと同じくらいやるせなくてイヤです。うるせー!  他のお話より喋り方が面白おかしくなっていて、比喩に撲殺天使ドクロちゃんネタを持ってきたのもこのお話です。
■「吉祥寺の朝日奈くん」
表題作は最後に登場です。映画にもなっているそうな。他の作品ではどれも学生が登場人物にいましたが、このお話はそれでも若いとはいえ社会人が主役の恋物語でした。吉祥寺で暮らす朝比奈くんは、穏やかなルックスと優しい性格で彼女はしょっちゅうできるがどんどん自然消滅もするナチュラル外道男子。現在のお気に入りは、行き付けの喫茶店で働いている細身で美人のお姉さんだ。そのうち仲良くなることも出来たけど、あえて無視していた結婚指輪を改めてチラリと見せる大人の対応をされちゃいました。あれあれ、娘さんもいらっしゃるんですかそりゃあお幸せそうですね。はてさてどんなお話になるのやら、という感じの内容。ま!不倫かしら!と法律的に不安な影が付きまとうお話ですが、何故かお話はじめじめや暗い雰囲気がなくてスッキリとしています。何なのかしら?という印象は、ミステリー作家らしい作者さんのさまざまな仕掛けが明らかになるにつれて面白く繋ぎ合わされていきます。もう、ロマンスもロマンチックも、どちらもロマンよねぇ(深い意味はない。伝われ)



以上、終了!甘いよ!結構甘かったよこれ!まったくもう、12月だし外は雪が降るくらい寒くなってるよマッタク!あー寒い!(しかし男の顔には以前とは違い、微かな笑みが浮かんでいるのでした…)