【c71】お母さんは町にちんこを狩りに行きました 不思議なお母さん

お母さんは町にちんこを狩りに行きました 不思議なお母さん


先月8月の頭から始まった電子書籍読み放題サービス"kindle unlimited"を、さっそく私もあれこれお試ししています。
現状和書だけでも十数万冊の書籍が月額定額で利用できるとの宣伝ですが、ラインナップはまるで電子書籍サービスが始まったばかりの頃を思い出させるような、ショボショボな印象でまだまだこれからという感じです。そもそも普通の電子書籍kindleストア自体が日本で始まって4年とかそのくらい経ちましたでしょうかね?ラインナップは結構満足できるくらい揃ってきてはいますが、配信が紙の本の発売1か月後とか今でも平気でやってますからね。kindle unlimitedに至っては新刊配信がされるのかどうかすら不明です。正直もうちょっとマシになるまで、同じように数年待ったほうが良いかもしれません。
しかし定額であれこれ読めるというのはやっぱり凄まじいです。コンテンツ不足のせいもありますが、今まで馴染みのなかったものに手を出すハードルが物凄く下がりましたから。そんな中で読みましたのはこちらの本、「お母さんは町にちんこを狩りに行きました 不思議なお母さん」です。とてつもなくハードルが高いタイトルでしたが、kindle unlimitedのパワーを使えば乗り越えることは可能なのだ!
こちらの本はどうやら電子書籍の形式でしか販売されていなくて、ページ数もかなり少なく気軽に読み終わることが出来ます。個人出版とかそんな感じのものかなと思います。
さて何よりまずタイトルのちんこが目を引くこちらのお話ですが、いったいこれはギャグなのかエロいのかそもそも何の本なのか想像することが難しく、ファーストインプレッションでの恐怖は並大抵のものでありませんでした。物語のある本を探しているのに、写真集とかエッセイとかだったら嫌じゃないですか。でもそんな心配も大丈夫です。こちらのお話のジャンルはちゃんと小説になっていました。しかもギャグに逃げないで結構真剣な感じのお話です。無茶すぎます。しかしこの本から溢れ出るパッションの誘惑と「これを読んでも読まなくても月々の料金は一緒…」というunlimitedパワーの相乗効果により、未体験ゾーンへと踏み出すエネルギーが私に与えられたのでした。いざゆかん。
お話の舞台は現代の日本によく似たN国です。タイトル通りにお母さんは町へ男のちんこを狩りに出かけ、集めたちんこを売って生活をしていました。お母さんのお仕事自体はとんでもないものですが、例えば狩場のT大で以前起こったという婦女暴行事件は現実世界でちょっと前に東京大学の学生が逮捕された事件を思い出させますし、家事労働や出産子育てや借金などで苦労する様子を語るお母さんの姿は現代社会のトレンドを濃厚に抽出していますしで、ファンタジーで覆い隠しているように見えてめっちゃ舞台裏が見えちゃってるストロングスタイルな寓話の様相を呈しています。といかほんとに最近NHKでやっていた貧困女子高生の報道を連想させるような話題も入ってて、あれ?この本の配信はいつなの?可能なの?と幻想的な気分になれました。テキトーに調べた感じだとNHKの報道が8/18でこの本が8/23ですので、物理法則には違反していない程度のことしかわかりません。
このお話では自衛隊だとか魔法だとかの突拍子もない出来事がよく起こりますが、まるで呪いであるかのように現実的な問題が常に強烈に付き纏ってきます。それは男女平等を訴えながら、一方でお母さんは料理洗濯をするのが普通だと平気で思っている世の男性への問いかけであったり、暴力から守ってあげると屈強な体で迫ってくる男の白々しさに対する皮肉だったりと、女性であることや社会的弱者であることで直面する様々な困難がぎっしりと詰まっていました。でも困難な現実一辺倒ではなくて、ファンタジーな魔法で戦ったり物理的にちんこを刈り取ったりするなどお話としての語りの妙があって面白かったです。
あとこのお話では出てくる男は全て敵側ですが、男の私から見てもどいつも近付きたくない人間ばかりでした。ヤリサーの大学生とか、学校でいじめてくる男子とか、女はこうあるべきと押し付けてくる男とか、私だって関わりたくないよこんなの…。作者さんは女性の方で、もしかしたら実体験も含まれているせいか、彼らに対する意見は実に辛辣です。言っていることは分かるところは分かります。でも分からないところはやっぱり分かりません。私は結局は男性ですし貧弱とはいえ体格も大きいですから、深いところはやっぱり想像で分かっているつもりになるしか出来ませんしね。でも自分が想像しきれないお話だからこそ、物語って面白いし楽しいものですもんね。
まるで作者さんの人生を切り取って叩きつけてきたような魂の一撃で、フィクションとしての面白さはこれ一冊読めばお腹一杯になれました。二発目とか喰らったらたぶん死ぬ。