四百二十連敗ガール

四百二十連敗ガール (ファミ通文庫)


人を見かけで判断してはいけないという心掛けがある。個人的にはほとんど信用していない言葉だ。
「こんなロリロリな少女が小悪魔気味にフトモモちらりしている表紙をしているボクだけど、実はキミに更なる叡智と見識を授けるために生まれた人生の良書なんだ。キミに興味を持ってもらうためにこんな姿を選んだんだ!」本が語りかけてくる。
そうか、そうだったんだね。僕のために君は偏見の目で見られる危険まで冒して待っていてくれたんだね。うふふふ、ありがとう。無駄な事をするんじゃないわよこのフニャチン野郎!真面目なら寄り道しないで最初からシャキッとしてなさいよアンポンタン!「うわーん、偏見よくないですぅー」本の幻想は消え去った。
この「四百二十連敗ガール」は実は読んでみると…なんてことは全くない、可愛い女の子と異様にハイテンションで常識を疑う高校生がひたすら頭のわるい事をし続ける笑い話だ。この本を手に取った時点で異様なものを感じ取ったのなら、そのままスッと見なかったことにして棚に戻すのもありだろう。お母さんもお子さんが興味を持ったら「シッ!見ちゃいけません!」と手のひらで両目を隠さざるを得ない代物であり、むしろお願いだからお子さんを近付けないでください、こんな僕を純粋な目で見ないでくださいビクンビクンと後悔の念を隠し持つ品である。でも後ろめたいものってどういうわけか惹かれるのよねぇ…。ヘッヘッヘ…
お話は聖シンデレラ学院という美少女ばかりが集まる学校に桃色の学園生活を夢見て入学した男子高校生の恋模様を主に描いている。声に出して読むどころか見られることすら忌避したくなる攻めの文章は、初めから粗探しをしようとする人間がいたら3ページでミッションコンプリートするほどの擁護の出来なさだ。最後まで読んで批判してやろうという人間がいたら、私はその類稀なる技量と強靭な精神に感服するに違いない。「ちょっとでもツッコもうなら気になる箇所が100個単位で襲い掛かってくるはず…、全てを捌くなんて人間業じゃねぇ…」
美少女ばかりが集まる学校でハレンチな学生ライフを夢見る野郎のどこに肩入れする余地があるのか。神の見えざる手によって無条件に好かれる人間など人間的魅力は皆無である。私は祈る「神よ、この主人公の男に不幸を与えたまえ」。神は男に蟯虫齧り虫というあだ名を授け、学校一の嫌われ者という役割を与えた。私は祈る「神よ、この男は嫌われていながら女の子に結局好かれてしまうのですか」。神は男に好意を寄せるヒロインを作り出したが、同時に条件を出した。男が苦手とする暴力的ヒロインと付き合うか、残りの女生徒四百二十人に告白して彼女を作るか。男にナンバーワンに嫌われている暴力的ヒロインは、四百二十人に振られてからアタシと付き合えば問題ないんだなと強引な解釈をした。男は散々ヒロインに心無い言葉をぶつけて泣かせた挙句、四百二十人に告白する方を選んだ。「おお、四百二十人に告白して振られる方がマシだと言われるとは、このヒロイン不憫すぎやしないだろうか!」私は泣き、ヒロインに同情した。
かくして不可能と思えるほどの困難な目標と、一歩踏み出すたびに傷だらけ必死の過酷な告白生活が幕を開けることになる。転落からの逆転は、いつの時代も人の心を熱くさせるものがある。そして状況が困難であればあるほど、必死に足掻けば足掻くほど、見ているものは心を惹かれるのだ。難しい局面をなんとか進めようと頑張る際の、作者さんのセンスもまたお話の面白さを引き立てるものである。いつ「実は主人公が好きな女の子が普通にいた」という都合の良い逃げ道に手を出すかニヤニヤしながら見ていたのだが、手を出すと見せかけてなんとかひっこめるというギリギリの舵取りを見せてくれる。「まぁ、セーフにしといてやろう…クックック」。なんだかんだ楽しんでる俺。
私は暴力的ヒロインが告白に尻込みする男に言い放った言葉を思い出していた。好きな女の子の趣味に合わせると言っても、今日明日で身につけるなんて無茶苦茶だと男は反論していた。そこをヒロインは「女のためだろ!無茶ぐらいしろや!」と無理やり押し切るのだ。
「ちくしょうちょっとグッと来ちゃったじゃねーか」少しニヤリとした自分が悔しかった。