【三島由紀夫】夏子の冒険

夏子の冒険 (角川文庫)



本屋さんで眺めてたら、この本が「え、これって三島由紀夫?奇想天外恋愛コメディー!」という文章で紹介されていました。これは宣伝の勝利ですね。もう、気になっちゃうじゃないですか。
だって以前に三島由紀夫さんの他の作品を読んだら、文章の言葉遣いがとっても綺麗で思わず「ほぇ〜」ってうっとりした声が出そうだったんですもの。ちょっとした高嶺の花と言うか、勝手に気品あふれるイメージを持っていましたのでコメディなんて文字が想像できなくて、どういうこと?どういうこと?とまんまと釣られたって寸法ですよ。
本日はコチラの本「夏子の冒険」を読みました。
時代背景は微妙に終戦の記憶がまだ残る昭和の初期から中期の頃。良い所の御嬢さんの夏子が「(世の中の男はつまらんので)出家するわお母様」と一家団欒の食卓で突拍子もない宣言をしたことからこの騒動が始まります。
この夏子と言う主人公はもうどの面下げて寝言言ってやがんだチクショウでも顔は可愛いというわがままぶりで、金持ちの息子や情熱あふれる学徒が熱心にアプローチしてもニコニコ笑っているだけなのです。「小奇麗な家、いつまでも優しい夫、庭の花で飾られた小さな牢屋での静かな毎日。どの男性の未来にあるものはそんなのばかり。考えただけでたまらないわ!」が夏子の言い分ですが、2014年の現在にそんな事を言ったらそりゃもう炎上してTwitterのアクセス数もがっぽがっぽってなもんですよ。どこかにアタシを見たことのない世界に連れて行ってくれる王子さまはいないのかしらと夢見る夏子は、現代だったら売れ残りコースも覚悟しな!まぁ男だったら連れて行ける王子さまになれるものならなりたいところですが、そうもいかないので哀しく噛みつく事しかできないのです。好き好んでお姫様を見捨てたいわけじゃないのだけどね。哀しいね。
とまぁ、世の中の男に絶望して出家しかけたところに一人の男が何とか現れましてお話は次の段階へ。退屈している夏子を射止めた(というか夏子から飛び掛かっていった)男は何が違ったのかというと、どう考えても何故か駅のホームで猟銃を背負っていたことくらい。「ああ、あの人の目の輝きこそ、それだわ」とよく分からん理屈で男へアプローチ。聞くところによると、男は友人の敵討ちに熊を仕留めに行くところだったとのこと。舞台はいざ北海道へ。夏子は熊狩りという冒険へと出発です。
こんな突拍子もない行動をする夏子ですから、取り残される家族は右へ左への大騒ぎです。突然いなくなったら失踪なんだか誘拐なんだか心配するでしょうに、適当に連絡して夏子はお構いなし。逃亡直前まで付き添いをしていた夏子の祖母、母、叔母の3人が大迷惑を被るも、この3人も夏子捜索で辺りを巻き込んで大騒ぎ。そのうち熊も出てきて暴れ出しますから訳の分からなさは加速します。
ある意味物語冒頭から示唆されていたと言えなくもない、ろくでなし夏子オチでエンド。これには読者も渋い顔をしつつニヤニヤ笑ってしまいますよ。