代替医療解剖

代替医療解剖 (新潮文庫)


代替医療:「通常医療の代わりに用いられる医療」という意味が込められた用語(Wikipediaより)
どうしてもゆっくり時間がある時に読みたかった本をお正月休みになって解禁です。このブログには珍しくノンフィクションの本。通常医療とは別に、昔から行われてきた伝統的療法や最近聞くようになった新しい療法について、いったいどれが効果があるのか、どんな効果があるのかをとことん科学で追い求めた手に汗握る一冊です。
まず個人的バイアスとして私はこの著者さんの書く作品がどれも非常に好きであり、作中に溢れる学者としての誇りを掛けて提唱されている二重盲検法にかかれば一発アウトの偏向のかかった好意的な感想しか書けない事を御容赦頂きたい。つまりいつも通りという事です。
著者のサイモン・シンさんは難しそうな題材を非常に面白く、そして分かりやすく、そしてドラマチックな物語に仕上げてしまう天才的な文才の持ち主でして、少しでも科学に心をときめかせた事のある少年のハートを学問の最果てへと手取り足取り優しくエスコートしてくれます。著者が執筆した「フェルマーの最終定理」は他の数学ノンフィクションをあまりよく知らなくてもこれが20世紀最高の一冊でもいいんじゃないかなと思うくらいにのめり込み、「暗号解読」は第二次世界大戦時にナチス・ドイツが用いた強力な暗号機エニグマを「え、俺でも作れるんじゃね?」とあまりに分かりやすい解説のため易々と信じ込ませ、「ビッグバン宇宙論」では宇宙の今についてこの著者さんが講義してくれるってよ!行くしかねぇ!と本屋にダッシュしたものです。
じゃあなんで2010年に「代替医療のトリック」が刊行されたときに読まなかったんだと聞かれれば、スマン今まで忘れてたと正直に言うだけであり、本書の面白さには何も関係がありません。
そんな感じで本日はこちら「代替医療解剖」よりお送りしてきます。サイモン・シンばかりに焦点を当てるのは不正確でして、本書はもう一人、エツァート・エルンストさんとの協力プレイで出来た作品である事にも忘れてはいけません。また日本語版に関しては、訳者の青木薫さんがフェルマーの最終定理も暗号解読もビックバン宇宙論もこの本もナイスプレイ(翻訳)をしてくれた事に感謝でございます。ありがてぇ。
さて内容に関してですが、最初の章で本書で用いる科学的検証法は何かとその有効性について述べ、ついでに昔は何もしなかった方がマシだった医者の歴史について面白く解説して、医療の捉え方について知恵を授けてくれます。現在のレベルに比べれば薬の効能を良く検証していなかったため、医者にかかる金のある裕福層の方が昔は治療でどんどん死んでいったというのも面白い捉え方です。
そして第二章から始まるスリリングな展開の嵐!鍼治療、ホメオパシーカイロプラクティック、ハーブ療法を大項目とし、その他いくつかの療法を付録として小さく紹介し、様々な論文や文献をあたって科学的根拠を徹底調査だ!
公平に、あくまで患者の有益になる事を信条にした調査ですので単に一般人の不安を煽るような書き方はしてないんですけど、紹介されている代替医療がことごとく科学的検証に耐えられない!療法の紹介と歴史背景を読者に伝え、次に今までに行われてきた検証の数々を評価、そして結論という手続きを取って再確認する代替医療の数々を読むと、実にすがすがしいまでにそれら療法に関する魅力が目減りしていく様が感じ取れる事でしょう。紹介されている代替医療の一覧を見たときに、どこかで聞いた事のある名前がちらほらと見つかった時のスリルはたまりません。いゃあー!科学的検証をされちゃう!
本書は単なる代替医療の批判本(公平に見たけど結局ダメなやつばかりだったよ的な)というだけでなくて、今まで医学に携わった様々な人物の歴史とドラマを面白く紹介した歴史本でもあり、医療と薬の付き合い方を教えてくれるお役立ち本という、充実の内容となっています。いつも通りではありますが、お話の語り口は稀に見るほどの親しみやすさと面白さで内容の楽しさに拍車をかけています。
本書の探求スピリットを尊重するならば、この本の内容を鵜呑みにするだけでなく関連書籍に関して自らの目で評価し判断していくべきなんでしょうが、絶対的な自信を持って書かれたこの本の事をそのまま信じちゃってもまあいいかと正直思ったり。誰の言う事を信じるのかと聞かれれば、そりゃあその辺のよくわからん人より、サイモン・シンさんでしょうよ。