【上橋菜穂子】神の守り人 (上)(下)

神の守り人〈上〉来訪編 (新潮文庫) 神の守り人〈下〉帰還編 (新潮文庫)


ヘイヘイ、あけましておめでとうでございますよ。
正月休みだから時間がなくて読むのがもったいなかったあの本もこの本もゆっくり読めるぞと意気込んでは見たもののですね、あっさり正月中じゃ読み終わらないくらいとっておいたものが出てくるのよね。結局読めないのよね。休みが短いのよね。
だから泣く泣く取捨選択を強いられつつ何読もうかなーと決めましたるはコチラの本。
そんな感じの守り人シリーズ5冊目、「神の守り人」よりお送りしていきます。
今回はシリーズとして初めて上下巻に分かれた長編となっていまして、より密度の濃い守り人の世界が広がる事となります。毎回タイトルの○○の守り人の名にちなんだ異界の住人に巻き込まれた人が出てくるのですが、今回は神様と来たものですよ奥さん。サーダ・タルハマヤという、言い伝えの支配者と同じ能力を再現した少女を巡る騒動が描かれます。今までの守り人は憑かれてぼーっとしていたり、別の異界の住人に食料として狙われたりと、ほっといても死んじゃうような人達ばかりを何とか守って行くことが多かったですね。でも今回の守り人は今までと違って実にアグレッシブ。怒りに身を任せて周囲の人間を八つ裂きにして、やすやすと辺り一面を血の海に変えてしまいます。人間相手に暴れてきたバルサさんも、この手の相手は初めてなんじゃないでしょうか。槍を握る手にも力が入ります。
お話としましては、バルサさんが前回の騒動から一休みして宿屋に泊っていると、奴隷として取引される寸前の兄妹を偶然見かけてしまいます。世の中の不正にいちいち付き合うような暇人じゃないけれど、あたしの目の前で悪だくみするとはいい度胸だとばかりに渇を入れに行くバルサさん(最近は30過ぎと表記がぼかされるようになったバルサさん)。いざ敵陣へ乗り込んでみたところ、そこで思わぬ殺戮の嵐に巻き込まれてしまいます。全てが静かになった後呆然とする兄妹を保護する事が出来たバルサさんですが、この兄妹の妹が密かに噂になっているタルハマヤを招いたとされる娘だったのでした。という感じの内容。
今回初めてえらく攻撃的な守り人が出てきたのですが、バルサさんの庇護のもと外敵から逃げ回るという図式までは変わりませんでした。とうとう守り人が敵に回るのか?と大きな物語の変化を期待しましたが、そこまではやってはくれませんでしたね。今までのバルサさんは守りに徹した槍の使い方をしてきましたので、攻めのバルサさんというものもいつか心行くまで見てみたいものですね。残りのシリーズに期待です。
いちおう身内となりましたタルハマヤの娘ですが、覚醒前のお約束と言いますか怯えた性格をしながら実態はいつ狂気に身を任せて無双乱舞するか分からないドキドキのシチュエーション。当然その強力な力は魅力的ですから、周りの悪だくみする連中がお仲間に引き入れようと誑かすわ、そんな恐ろしい力は代々処刑してきたんじゃと殺そうとするわで混沌を極めます。今回の悪だくみのエースは王家の闇部隊員のシハナ嬢。敵だけでなくて身内も罠に嵌めて己の野望を邁進するある意味ダークヒーロです。主役のバルサさんと一騎打ちする見せ場も用意されてて、作中の扱いの別格さは今後のシリーズにも出てきやしないだろうな?とビクビクしそうになるくらい怖い存在です。
まぁそんな感じの事件が起こりますのでバルサさんの槍も守備とか逃亡用の使われ方をするんですが、それでもお話の中では大の男が吹っ飛ぶ吹っ飛ぶ。というかバルサさんがとうとう槍すら使わずに素手で野生の狼を屠り去ったのは呆然ですよ。いや…普通は武器を持ってたとしても狼とは戦いたくないんですけど…。もうね、笑いました。
不運な恋物語から何年もの時を経て、親から子へと受け継がれた意思で引き起こされた今回の事件ですが、静かな余韻が寂しく尾を引く結末となり今までのシリーズとはちょっと違った読後感を覚えます。そっと本を閉じた後にも微かに残る寂しさです。