【ダニエル・ドレズナー】ゾンビ襲来 国際政治理論で、その日に備える

ゾンビ襲来: 国際政治理論で、その日に備える


2015-11-29の日記のコメントより。
>代わりと言ってはなんですが、「ゾンビ襲来: 国際政治理論で、その日に備える」はどうでしょうか。和訳が絶妙??でよくわからないカタカナを引いては読み進めていく感じになるかもしれませんが、国際関係論?宗派?の思考方法の概要をゾンビと共に押さえられる内容となっています。ゾンビ映画に関する知見も得られるとも思いますので、結構おすすめです。



おすすめありがとうございます。本日はこちら「ゾンビ襲来 国際政治理論で、その日に備える」を読みました。
濃い!ゾンビ愛が濃すぎるよこの本!みんなゾンビ大好きだな!
こちらは一見したところ「もしゾンビが現実に発生したら?」を真面目に考え、現実世界で起こりうる事態を想定しシミュレートを行う本のような印象を受けますね。概ね間違ってはいません。でも実際は「なんで世の中はゾンビに対して何も対策をしないの?なんでゾンビの危険に対してもっと議論しないの?馬鹿なの?」くらいで最初っからトばして来ますので、ゾンビが発生することを前提で国際社会が抱える「対ゾンビ政策」の問題について本書は深く切り込んでいきます。著者のダニエル・ドレズナーさんは国際政治学を専門とされている学者さんのようでして、政治学的な内容に対する言及や考察はとても詳細で大真面目です。いわゆるその道プロがどういうわけかゾンビのプロでもあったようでして、国際政治理論とゾンビ学が悪魔合体して生まれたこの本はなんだかよく分からんけど凄いクオリティだと素人パンピーな私でも圧倒される情報の洪水のような内容でした。
和訳にちょっと難ありの事前情報も頂いていましたが、カタカナ語自体は英語の発音をそのままカタカナに直しただけですから雰囲気で流せば良しとして、漢字の専門用語が政治学のガチの方面からお目見えするのでこっちも大変です。というかほとんど専門書みたいになっているので、訳がどうのこうのとかで読み易さが変わるレベルとはあまり思いません。政治学と、もちろんゾンビの専門書です。「リビングデット」「アンデット」「不死者」「食屍鬼」「グール」とか細かく区別する配慮をされても、アタクシには違いがそんなに分からなくってよ!
その筋の人にはゾンビは一般的な話題のようで、学問的研究も結構いろんな分野でされているそうな。本書で述べられているだけでも、人文諸科学、哲学、自然科学、動物学、生物学、法医人類学、物理学、数学etc…とまあ様々な方面からゾンビについて研究する人は研究してきたのです。確かに自分も、虫をゾンビ化させる寄生虫とか、哲学的ゾンビとか、ゾンビを対象にした研究は聞いたことがありますね…。その中で本書は、国際政治理論の観点からゾンビについてスポットを当てた内容になっているというわけですね。
それだけ聞くとやたら難しそうな話題の印象を受けますが、今回の研究対象のゾンビは多くの映画や小説で描かれてきた"一般的な"ゾンビを定義して考察していますので親しみやすく、こちらも実に濃い作品への言及が満載で昨今のゾンビ作品を大量に知ることが出来ます。ただ、どういうわけか訳者も巻末で自らのおすすめゾンビ作品リストを載せています。始めは本書で言及があったゾンビについての参照資料を載せていたのに、最近自分が読んだゾンビマンガ作品リストとか「あれ、関係なくね?」みたいな話題を混ぜてきたかと思いきや、最後に自分のお勧め作品リスト(一言感想付き!)を載せて本性むき出しで笑いました。
真面目なんだかギャグなんだか分からない印象ですが本書で触れられている内容は至って真面目で、レアルポリティーク(現実政治)、リベラリズム(理想主義)、ネオコン新保守主義)、構成主義、国内政治の観点からの考察、官僚政治の観点からの考察など国際関係論(ほとんど知らねぇ…)の視点でそれぞれ章分けされ、各モデルがゾンビにどう対処するか解説した、ある種 国際関係論の教科書みたいな出来になっています。真面目にこの本から政治学の勉強をするのもありじゃないでしょうか。この本を読み終えると、グローバルな視点での各国の関係性や、安全保障、社会統制などマクロな物事について他人事ではなく考え始められるようでした。



おまけ

著者と訳者近影を見たらゾンビ化していました。…やっぱりこの本、ギャグかもしれん。