The GIVER (44日目くらい)

The Giver


文字を読み終わるまでで30日…、オーディオブックで4時間50分聴き続けるだけでプラス14日…。これが今の私の読書スピードですが、おかしいな…2,3年経っても読み終わる速さが変わらないぞ?何か上達してるんだろうか自分?
いつもの如くパッとしない英語力のワタクシでございますが、また一つ読み終わりましたんでここに記します。「The GIVER」おーわりー。
翻訳された邦題だと「ギヴァー 記憶を注ぐ者」とサブタイトルみたいなものが追加されています。確かにギヴァーだけじゃ訳が分からないから、ええんでないでしょうか。
本書は児童書ですが、内容は暗喩めいたことが多くて知識と想像力を刺激してきます。ですから何も知らない子供が楽しむのとは別に、大人は大人で作品の世界観から垣間見える真実にもやもやすること受けあいのちょっと怖いお話でした。お話の舞台は積極的に説明されるわけではなくて、冒頭では普通の町に暮らす普通の少年が、ありふれた家族に囲まれて今日も平和に暮らしている、そんな他愛もない生活が描かれているだけです。
主人公の少年の名前はジョナスくん。優しいお父さんとお母さん、それに元気な妹と一緒にいつもの食卓に着きながらも、ちょっぴり気分はナーバスです。何故かというと、もうすぐ一年に一度の地域の式典が行われて、12歳になったジョナスくんは将来着くことになる職業を言い渡されることになっているからです。彼の暮らすコミュニティでは決まりがありまして、式典の際にある年齢に達した幼児にはぬいぐるみがプレゼント、また何歳になった子供全員に制服がプレゼント、また何歳では自転車をプレゼント等と、毎年決まったお祝いが貰えることになっています。同じように12歳になった子供全員には、それまでの生活態度から一番適していると思われる職業が偉い人たちから割り当てられます。職業選択の自由はありませんが、子供が好きな人間は託児所勤務になったり、頭の回転が速い人間は医者になったりと、みんなが満足出来る結果になるようになっています。ジョナスくんは、僕にぴったりな職業っていったいなんだろう?と不安も感じながらもドキドキワクワクしちゃってるわけなんですね。
え、自分で仕事を選ぶことが出来ないの!?と一瞬ビビりますが、与えられる職業でも満足する可能性が高いと考えると難しい問題ですねこれは。やりたいことを探して、何社も面接して採用されるまで歩き回っても、働き始めた会社でやりがいを感じることが出来るかと言うと、それはまた別問題。ならば最初っから決めてもらった方が時間も無駄にしなくて合理的に感じてきます。何よりみんな幸せそうですし。
ジョナスくんのコミュニティではみんなが幸せになるよう決められたルールは他にもいろいろありまして、大人になったら家族を持って男の子一人と女の子一人を育てなければいけません。それ以上でもそれ以下でもダメ。もちろんパートナーは決められていて、ある年齢になると割り当てられた子供を家にお迎えする事になります。ん?お母さんは産まないの?じゃあ赤ちゃんはどこから来るの?とまるで無赤な子供の様な質問をこの年齢でするとは思いませんでしたが、産む専門の職業の女性がいますのでお母さんも返答に困ることはありません。バースマザーと呼ばれるこの職業ですが、こちらも12歳の式典で任命されます。準備期間が終わった後、3年で3人の子供を産んで残りは老人ホームに入るまで肉体労働。これがこの職業の決まりです。幸せってなんだろう?と分からなくなってくるようですね。ただ言えることは、誰も争う必要がなくて今日もコミュニティは平和だって事です。
ちなみにバースマザーは12歳の女の子が任命されますが、孕ませる専門の職業(卑猥すぎる…)は全然言及がされなくて無いみたいですね。遺伝上の父親の存在が不明なんですが、これは実にけしからん問題なのでスルーされたのは誠に遺憾でありました。12歳の女の子を合法的に指名出来ちゃうくらいですから、やはりオッズの一番人気はコミュニティの偉い人たちでしょうか。または優秀な能力を持つ人間が選ばれるのか、いや、ずっと同一人物の人工授精でやってきているという線も…。もう男子ってサイテー!な話題にコミュニティの人間がどう対処しているのかというと、老人になるまでみんな気分を落ち着かせる薬を飲んでいますので大丈夫。すげぇ力技!
とまぁ、普通に見えるこの平和なコミュニティは、読んでいる人間にだけ異様だという事が次第に分かるのです。あらゆることが管理されたこのユートピア。食料の配給で人々は飢えを知らず、環境のコントロールで気候はいつも暖かく、皆が他人を思いやる気持ちを持ち、争いは起こらない。何も問題はないね。
しかしただ一人、このコミュニティで違和感を感じ取れる人間が存在します。それがギヴァー。町の賢者として特別な名誉と代々受け継がれた記憶を持った老人の名前であり、また12歳になったジョナスくんが任命される職業の師でもあります。ギヴァー老人がジョナスくんに伝えるものは過去の記憶です。手のひらをかざし、目を閉じると、昔々のここではないどこか遠くの、コミュニティでは存在しない喜びや悲しみや興奮や苦痛の記憶がギヴァー老人からジョナスくんへ受け渡されていくのです。ただ一人様々な記憶の重荷を背負う事で、コミュニティの中で迷いが生じたときに導く知識を有する者、それが「レシーヴァー」としての役割でした。
ジョナスくんはレシーヴァーとして記憶を受け継ぐうちに読者と同じような感情を持つようになり、やがてコミュニティの異様さに気が付くもう一人の人間となる…。お話の行く末で待ち受けるものに正解はありません。
コミュニティで暮らしていくのに適さない極一部の人間、ルールを何度も破る人間は「リリース(解放)」という名の儀式の後に町を去ることになります。また人生を十分に過ごした老人も、盛大なセレモニーと共にリリースされて町を去ります。リリースが何を意味するのかお話の後の方になって明らかにされますが、そんなことされなくても無垢な子供じゃない限り見当はすぐ付いてしまいます。問題がないとは言えませんが、この管理されたコミュニティの幸せに納得する部分はある。どうしようもなさが哀しいッスよホント。