【片島麦子】中指の魔法

中指の魔法 (講談社文庫)


2013年6月刊行。ワルプルギス賞受賞作です。ってなんですかその賞。まどか☆マギカに出てくるボスみたいな名前をしてるね。
講談社がWEBで提供しているプロジェクトアマテラスという企画の一つの様です。HPにいろんな人が作品を投稿したり意見を書いたりできるSNS形式のバラエティ豊かなサイトでして、プロジェクトと呼ばれる催し物が数多く進行していて、4コママンガ募集!とかゲームの思い出をエッセイにしてね!とかアイドル候補生募集!とか、そりゃもう様々なプロジェクトが渦巻いてるカラフルな場所になっていました。その中の一つにワルプルギス賞プロジェクトがあって、小説をスレッドに投稿したりみんなでワイワイ感想を言いあったりして人気が出たら刊行交渉へ、みたいな経緯で出版された作品の様です。フーム、WEB小説に近いものを感じます。内輪の雰囲気はありますがみんな楽しそうですね。
そんな感じでこちら「中指の魔法」よりお送りしていきます。
偏屈なおばあちゃんと孫の"ぼく"が織りなす、ちょっと変わった交流のお話です。メインは"ぼく"ことロクくんの視点からお話は語られていきまして、まだ小さいロクくんの思い出からだんだんと大人のロクくんになっていく成長物語になっていました。いいよね、頑固なおばあちゃんと小さい主人公くんのちぐはぐな関係って。まぁ、なんか60ページくらいすっ飛ばして読み始めたみたいに物語の背景が感じにくいなぁとか読んでる途中は思いましたが、本の出版の経緯を知ればなんとなく理解できそうです。たまたまアクセスした人間が途中から読めてお話に入り込みやすく、かつ逃げられないよう数行で興味を惹きつけるには、そりゃまぁ丹念に舞台背景を作る時間はありませんな。
おばあちゃんには何故か昔からいろんな人が助けを乞いにきていて、家はいつも相談者の訪問で絶えません。子供のロクくんには何が行われているかイマイチ分からないけど、おばあちゃんの不思議な能力には薄々気付いていました。そのおばあちゃんの孫であるロクくんも備わっているものが何かしらあるらしいのですが、そのうち使う事もあるんじゃないかな程度で今日もいつもの日常が過ぎていく、そんなお話でした。世界観は狭いです。ぼくとおばあちゃん、時々お母さん。何百人もいる学校に行っても、ロクくんが見えている人間は二人か三人。ロクくんの授業を受けている様子は見えない。放課後友達と遊んでる姿も見えない。住んでいる街にどんな人がどれだけ歩いているかも見えない。外の世界には何もない。見えている範囲が世の中の全ての、夢の中にいるかのようです。
個人的に、最後にロクくんが言った「君が嫌いだ」発言が好きです。おぉロクくん、意見が一致したな、ってな感じで意気投合(一方的)。ロクくん、なかなかイイ奴じゃないか。