【仁木英之】先生の隠しごと 僕僕先生

先生の隠しごと 僕僕先生 (新潮文庫)



この僕僕先生シリーズの第一作目は日本ファンタジーノベル大賞を受賞していましたが、昨年の12月でその賞も終わっちゃったそうです。僕僕先生もそうですが、いろいろ好きな小説によく出会える賞でしたから寂しいですね。なんだか休止の理由の一つが"一定の役割を終えた"だそうですから、お疲れ様でしたと言ってあげたいです。
さてナンバリングがされていないからちょっと分かりにくい僕僕先生の5冊目、「先生の隠しごと」を本日はのんびり読みました。
目的も何もない、一人の仙人(美少女)と一人のニート(おっさん)の気ままなぶらり旅ですから、行き当たりばったりで始まるお話が今回どうなるかは読んでからのお楽しみ。…ん?いや、普通の小説も大抵読んでからのお楽しみか。まぁ細かいことはいいじゃないの。
さてお話ですが、僕僕先生が昔の夫の影にほだされて、成り行きで立ち寄ったみんな笑顔の不気味な国で思わぬ長居をすることになります。衝撃…でもそんなにない驚きの事実!僕僕先生はバツイチだった!いや、相手も神様で死に別れたっぽいけどまだ死にきってないからギリギリセーフ?ともかく事実は曖昧なままで僕僕先生は再婚することになります。相手は笑顔が眩しい新興国の王さまです。突然の事に動揺する王弁くん!すかさずツッコむ読者(俺)!いままで散々グダグダやってきたのに今さらだなぁオイ!
僕僕先生の突然の婚姻も驚きですが、まるで地上の理想郷のようにみんな勤勉で幸せそうなこの国も実に怪しいものです。はてさてこの地で巻き込まれた突然の出来事の数々には、いったいどんなカラクリが潜んでいるのやら追い求めることになるのが大まかな内容です。
一緒に旅をしてきた仲間たちそれぞれの目線から怪しげな国の姿が浮かび上がってくるのですが、各キャラクターの個性が出ていていろんな面白さがありますね。主人公だけどノーナシ担当の王弁くんが見る世界は、どこかイライラするけど概ね豊かな町並みです。女性の薄妃は町の少女たちにおしゃれについて教えながら、心の奥底に押し込めてある不満を巧みに察知します。元暗殺者の劉欣は、笑顔の胡散臭さを徹底的に疑って慣れ親しんだ暗部を嗅ぎまわります。やはり美味い話には裏がある。クックック…やはり人間は醜いのぅ…と心が濁っている私は、劉欣のパートが始まるととっても安心しして面白く読むことが出来ます。
今まで大した事も出来ないはずなのに主人公補正でオイシイ役割に何かと縁があった王弁くんですが、意外や意外、人の生き死にと数々の苦境に晒されて必死にもがく姿を見ることが出来ました。そんな辛い中でもめげず、へこたれない王弁くん。誰だお前は!主人公みたいじゃないか!
なかなか大事になっちゃったけど、思い返せば旅ゆく途中で起こった出来事の一つになっちゃいそうな今回のお話。僕僕先生と王弁くんの旅はまだまだ続きまーす。