【仁木英之】さびしい女神 僕僕先生

さびしい女神―僕僕先生 (新潮文庫)


少し疲れてきたときにニート生活を羨ましく思う事がありますが、そんな生活はろくでもないものに決まってると、ちょっと考えれば気の迷いだなんてすぐわかる儚い妄想。でもこのお話のニート生活なら大歓迎。親の金で自分くらいは死ぬまで働かなくても良い程度の資産はあり、余す時間は地元にいた美少女仙人に連れられて、スローライフな諸国漫遊の旅行へ出発。姓は僕、名も僕、そして自分の事をボクと呼ぶボクっ娘仙人の僕僕と、のんびり青年の王弁くんのシリーズ4冊目です。
基本的にお話の内容は、物知りな年上のお姉さん(でも見た目はロリ)と一緒にワイワイいろんなところに旅行するだけですからね。お前それ、金を払わなきゃ実現できない類のものだろと正直思う。パーフェクトですね。
続き物なのでこの巻から読むことはちょっと厳しいかと思われますが、今までの道中で知り合った仲間も増えて、賑やかな旅の途中からまたお話は再開されます。干ばつに苦しむ都に赴き、原因究明へと首を突っ込む王弁くん。旅の寄り道もまた一興なり。(渦中の都出身の仲間を横目で見ながら)
そんな感じで今回のお話では、干ばつを引き起こした原因である寂しげな女神さまを巡って物語が展開していきます。この女神さまの力は洒落にならないほど強力で、大昔に洒落にならないことをやって封印されたそうな。さまざまな神々の中でも干ばつの神様がずば抜けて強大な力を持っているという話は、昔から飢饉やら何やらで人間を苦しませてきた恐ろしさを考えれば納得の事。そんな天変地異クラスの相手に挑むのは、ニート青年の王弁くんと前回仲間になった暗殺者の劉欣だ。僕僕先生は単独行動でお話には見えない所でなんかやってるぞ。さあ、自分たちの力で何とかしなくちゃね。
最近都が干ばつに見舞われたのは女神さまの力のせいですが、ちょっと封印が解かれたことによって漏れ出しちゃったみたいです。自分で力を抑えようとしても、強すぎてイマイチ制御できていないんだって。ちなみにこの女神さまがどれだけ強いかっていうと、登場したとたんに大昔の神々の戦で戦局を一気に勝利へ導く程度の活躍をしたんだってさ。要するに神様相手に無双したってことだね。うん、こんな女神さまを何とかしろって無理ゲーにもほどがあるね!
まあ実際正体が明らかになるのは少し後の事なんですが、それを知る前に各々行動に出始める王弁くんと劉欣。この二人はニートと優秀な暗殺者というある意味対照的な人間なのですが、凡人と天才、持っている人間と持っていない人間といった感じの資質の違いをなんだか感じるお話になってました。どう考えたって主人公気質なのは暗殺者の劉欣で、応援したくなるのも彼です。劉欣は干ばつの解決の為、都に伝わる伝承を調べに隠れ住む老人の話を聞きに行き、行方不明になった王の息子を探しに潜入調査したりと優秀な働きぶりを見せてくれます。暗殺者だった彼も旅のおかげか人情味がちょっとだけ出てきて、感情豊かになったように思えます。自ら行動する力強さと着実な成長が見えて、実に魅力的な人物になったじゃないですか。
いっぽう完全に人頼みな王弁くんは、運よく干ばつの女神さまと知り合いになったことで一先ず原因に直接辿り着くことに成功します。あとは彼女の事を知る人に何か解決する方法はないかと聞くために、古の神々の下へ行くため宇宙へ出発!遥かな距離をひとっ跳びして伝説の神様たちへ こんにちは しに行く王弁くん…ありかよそんなの。劉欣の活躍も悪くはなかったんですが、女神さまの正体が凶悪過ぎて実は無力だったりします。それに彼は王弁くんのように神々の所までのんきに出向くような事は無理っぽいよね…と考えると、人間としては圧倒的に負けている王弁くんの才能に戦慄せざるを得ません。スケールが違うぜこのニート
過去のお話が出てきたことで、僕僕先生の昔の様子も少しだけ見ることが出来ました。今まで野盗に襲われても妙な安心感で適当に蹴散らしていた僕僕先生ですから、だいぶ武術に秀でていたのは前からわかっていました。暗殺者に囲まれたときだって、可愛い悲鳴の一つぐらいあげさせたら暗殺者は大金星だよなーやっぱ無理ですよねーくらいに見ていました。でも僕僕先生、そこまで強いって聞いてないっすよ。うん、ふつーに次元が違ってたんだね。おかげで僕僕先生が「キャッ!」とか声を上げる事は未来永劫ありえないことが分かりました。かなしいぜ…。
今回は干ばつの女神さまのちょっと哀しい物語。そんでのんびり旅はまだまだ続くってお話ですぜ。