ゲート 自衛隊 彼の地にて、斯く戦えり (上)(下)

ゲート―自衛隊 彼の地にて、斯く戦えり〈1〉接触編〈上〉 (アルファライト文庫) ゲート―自衛隊 彼の地にて、斯く戦えり〈1〉接触編〈下〉 (アルファポリス文庫)


好きな本ぼしゅう 5月のコメントをもう一回。
>おすすめしたいのは、「アンドロイドは電気羊の夢を見るか?」と「GATE 自衛隊 彼の地にて 斯く戦えり」です。前者はジャンルはSFであり、とても有名な作品なので、もしかしたら読んでいらっしゃるかもしれませんが・・・・
後者は自衛隊がファンタジーな世界で活躍する話です。話自体は完結しており、ハードカバー版は出ているのですが、文庫版(私は絵に釣られてこちらを買いました)は現在途中までしか出ていません。
両作品ともかなりおすすめなので、時間があれば読んでみてください。

アンドロイドは電気羊の夢を見るか?はこの前読みましたので、今度はもう一つ「ゲート 自衛隊 彼の地にて、斯く戦えり」をチョイス。毎度毎度、おすすめには感謝しておりまする。
さてこちらの本ですが、表紙の見た目で内容のほぼ8割くらいはもう説明できてるんじゃなかろうかという説得力の通り、異世界に対して自衛隊がガチンコの戦いを挑むファンタジーとなっています。異世界から人が来たり、逆に異世界に迷い込んだりなんていうファンタジーはいつの時代も愛されているジャンルで御座いまして、今も昔もせっせと人材交流が盛んに行われていると思われます。美しき魔導師が現実世界にやってきて主人公くんの協力のもと敵対勢力と激しい戦いを繰り広げても良し、異世界に迷い込んだ主人公くんが救世主と扱われて戦乱の最中に放り込まれても良し、ちょっと意表を突いて魔王がしがない1K生活を強いられても良しです。そんで都合よく伝説の剣だとか絶えてしまったはずの魔術だとかの特殊な装備で戦ってる登場人物たちをたくさん見てくると、現実の武器や武術を使う職業で参戦を夢想する現実志向な考えも出てくるものです。自衛隊なんてその中でも最たる武力を誇ってるものでしょうし、侵略者に対抗してもらうにはやっぱりこれでしょう。難しい所は普段あんまり馴染みが無い代わりに、なんだかんだ言って自衛隊にも現実感はある程度欲しいといった事でしょうか。これに対する作者さんの経歴には、自衛官の経験ありとの記述あり。勝利は既に約束されたようなものです。
時は現代、突如として銀座に異世界とのゲートが開かれ、異世界の軍勢が攻めてくる事件が発生します。数万にも及ぶ軍勢は国内に恐怖と混乱をもたらし、これを受けて自衛隊が派遣され事態の収束に動き、割とあっさり敵勢力の撃退に成功。敵はオークやゴブリンなどの未知数の生物で組織されているものの、フハハハハハハ我れらが自衛隊の戦力差は圧倒的ではないか!ということが開始10ページくらいで分かります。殺戮や、これはまるで殺戮やでぇと若干かわいそうになるくらい弱いものいじめ臭がしますが、読者もおそらく作者も求めているところはそこじゃないのでたいした問題にはなりません。そもそもお話に入る前の、登場人物紹介の時点でだいぶヒドイです。自衛官の紹介に「オタク趣味」とか「ケモノ娘萌」とか「小柄だが巨乳」とか、本当にその紹介でいいの?と思わざるを得ない文字がいたるところに飛び交っています。エルフや騎士などのファンタジー勢もスタイル抜群だとかゴスロリだとかの偏った情報が満載されていました。いったい何を書くつもりなのでしょうか。
既に異世界人とのファーストコンタクトは済んでいますので、お話は自衛官の一人、伊丹二尉が任務でゲートの先を調査する事がメインとなります。異世界人は特に隠れる事無く堂々とした侵略を行いましたので、日本国内はもとより世界各地を巻き込んだニュースとなって世間に認知されています。ここから想像される事態は実に多種多様で、とてもじゃないですけど全てを描ききる事は不可能でしょう。今回のお話は自衛官をメインに据えることで、日本の自衛活動の様子とかマスコミや国会での対処なんかでそういえばニュースでこんな光景見たことあるなと、馴染みのある話題がいろいろ出てきていました。また外国がゲートの日本独占に対して、落ち着いたら資源の利権やなんかで絡んできそうな気配がする辺りも、国防なんて観点のお話だなぁなんて思いました。あれもこれも書かなきゃいけないような大事な事柄ですが、あっという間に脱線しそうな目移りする話題がとにかくいっぱいあります。いったい何を自分は求めているのか見失わないようにしないといけないのです。
作者さんの経歴のおかげか、道中の自衛隊の描写は実に細かく出来ています。自衛隊銃火器について自分は素人なので真偽はようわからんのですが、それでも話題の豊富さや説明の丁寧さは分かりますし、ほうほうなるほどとのめり込んでしまう面白さがあります。そしてまだ弓と剣で戦をする異界の民たち。戦場の近くに住んでいただけの地元民と自衛官との交流の中で、やがて金髪美人のエルフが出てきたときの胸の高鳴りは、私は何を求めていたのか分かったような気がしました。そして自衛官たちが金髪エルフを見て「希望が出てきた!」とか「エルフ萌えか?」とか「貞淑な淫魔(女)希望」とかマジで本文中に言っている姿を見て、求めていた私の姿はなんて醜いんだろうと哀しくなりました。ファンタジーな異界人の容姿の例えにフィギュアとかアニメキャラの話題で表現してくる自衛官たちはきっとリアルなんだろうなと違和感なく納得している自分がいました。また同時に、フィギュアとかアニメの美少女が僕は別に嫌いじゃないという事も思い出しました。現実的じゃないとか子供みたいとか拒否するのは、単に恥ずかしさを誤魔化す為の自分に吐いた嘘であり、本当の自分じゃないという事も思い出しました。僕はもう哀しくなりませんでした。自分の払った税金が自衛隊を通して、金髪エルフを助けるために使われるなんてなんて素晴らしいことなんでしょうか。若き賢者やゴスロリ(ババア)神官のために、もっと税金払わなくちゃいけませんね!
敵勢力はいったん沈黙している上にお前もう勝ち目ないだろくらいの戦力差はありますが、実際に参ったと言わせる一押しがまだなので戦闘を前にしたワクワクはいまだ健在です。また大型のファンタジー生物も生息しているようでして、異世界人が手も足も出ない伝説のドラゴンに対して自衛隊の大火力で迎撃する展開は、やっぱこれは外せないよね!という爽快感がありました。それを支える軍事兵器の描写の細かさが面白さに拍車をかけますね。地元民の噂になった自衛隊の特大魔法「コホウノ・アゼンカクニ」(後方の安全確認)とかの小ネタが、私は好きです。
戦国自衛隊みたいにタイムスリップしたわけじゃないので、物資や弾薬の補給はしっかりしていてフルパワーの自衛隊の姿を見ることが出来ます。侵略者にリアリティとかを求めて、宇宙船でやってきた宇宙人なんかと戦うのはアメリカの軍隊にでもまかせとけばいいんです。日本の自衛隊が日本的なファンタジーの世界で活躍するのがいいんだし、そういう要望にもうパーフェクトに応えてくれるお話です。この1巻は昨年の12月頃刊行でして、文庫版が完結するのはもうちょっと先になりそうね。