四畳半王国見聞録

四畳半王国見聞録 (新潮文庫)


今を遡る事 約三年の2010年。四畳半神話体系のTVアニメーションが(個人的に)好評にスタートし、(たぶん世間的に)好評のまま大団円を迎え終わった翌年に、なんだか四畳半と名の付くよく分からないものが刊行されました。
アニメの影響を受けて企画されたアニメのガイドブックか、もしかして続編か、それとも意表を突いて京都の観光案内をしてくれる本で淡い期待に胸をときめかせた者たちをガッカリさせる巧妙な罠なのか。憶測は憶測のまま、面倒くさくなったワタクシは問題をそのまま三年ほど放置して、この度文庫化したことによって確かめてみることにしました。…うむ。これは"新作"の短編集ですね。
作者さんのHPでも「騙されてはいけない」と思いっきり注意喚起をしていますが、まぁちょっと茶目っ気を出して四畳半なんて付けちゃいましたけど、四畳半で生活する人間たちのお話を集めたアニメと関係は特にないお話でございました。それはそれで問題はありませんけどね。
作者さんが数年に渡って書き連ねた四畳半に関するお話を七つ集めた短編集でして、いや何で四畳半なんてテーマでそれだけポコポコ書こうと思ったのこの人は?と若干不可解な印象の通り、よく分からない混沌とした物語群を形成していました。アクの強さも今までの作品の中でも際立っていますが、阿呆阿呆連呼の頭脳の無駄遣いぶりは健在で笑いと悲哀の溢れる楽しい道中となっています。お話の内容は混沌とし過ぎていてとてもじゃないですけど言葉で説明し辛いです。ただ宣伝文句にも使われている作中での一言「ついに証明した!俺にはやはり恋人がいた!」は、作品から漂う知的な雰囲気と恋人って頑張って数式で証明するものじゃないよね…という残念な感じと哀しさがよく表現されている一言だと思います。そんなことは分かっているうえで、恋人の存在証明が可能とは!?いったいどんな方程式で!?と食い付いていける人間がこのお話に向いているのだと思います。くそぅ、俺も恋人を作るためにもっと数学を勉強しておけばよかった…!
ちなみに四畳半神話体系と関係ない関係ない言われてますけど、"私"と小津と明石さんはチラリと出てきました。さらに言うならば、新訳走れメロスのキャラクターも出てきましたし、京大内の怪しげなサークルの数々も登場します。私の気づかない所にもいろいろ出ているのかもしれません。そんな予感をさせる、ごった煮のお話となっています。だからまぁ、ファンサービス的な部分はあり、新規読者には分からなくてもったいないかなぁという所もあり、という感じでしょうか。自分も全部わかってるわけじゃないからどうでいいかも。
でも相変わらず楽しいお話ですヨ。