ブログ始めて10年経ったってよ


びっくりすることに、2008年の4月にこのブログを始めてから10年が過ぎたらしいです。
びっくりするくらい実生活の方は変化が無かった10年でしたが、ひとまず元気でいるから良しとしましょう。ブログの方は更新の頻度が激減して死にかけですけど。うん、生きてる。ギリ生きてる。
このブログはこれからも細々と続いていきます。

【松浦だるま】漣の糸 (累 13巻 特装版 収録作品)

累(13)特装版 (プレミアムKC イブニング)


小説単体ではないので少々変則的ですが、漫画の"累"13巻の特装版に書き下ろしの短編小説が収録されています。
「漣(さざなみ)の糸」と題された60ページほどのこちらのお話ですが、本編の漫画で言うと11巻で主人公のかさねちゃんが海辺の岸壁にやってきて、思わず飛び降りそうになった時にお母さんの最後の言葉を思い出した、その直後を描いています。漫画内でも最終章へとお話が大きく動いた重要な場面であり、なぜ絶望の中にいたかさねちゃんが思い止まりもう少し生きることを選んだのかという大きな謎を読者に伏せたまま次の場面に移るという、めっちゃ続きが気になるけど悶えながら読者は待つしかなかった印象深いシーンでもあります。
ただ漫画本編しか読んでいない人向けに誤解がないように言っておきますと、この漣の糸を読まないとお話の謎が明かされないという事は全然なく、その前の漫画内でしっかりと答えは描かれていますので変な心配は無用です。逆に本編に大きく影響するような新事実はなく、あくまで今まで出てきたお話や伏線など読者が知っている話をもう一度なぞり補完するような感じのお話でした。むしろ外伝として出ている小説の「誘 -いざな-」の続きにあたるお話のような印象を持ちましたかね。
本編の主人公かさねちゃんのお母さん、いざなさん。外伝小説で出生と住んでいた村を出た理由が描かれていましたが、その後かさねちゃんを生んでからのいざなさんのお話を知ることが出来ます。漫画本編では回想という形でいざなさんは出てきますし謎もあらかた明らかになっています。でも漫画はかさねちゃんのお話なのです。同じ場面が描かれてたとしても、小説はいざなさんのお話なのですよ。
いざなさんがかさねちゃんを生んで零日、いざなさんが母親となった戸惑いと恐怖を綴っていく場面からメインのお話は始まります。(崖の上のかさねちゃんについては凄く短いので割愛!)
漫画ではいざなさんは娘のかさねちゃんをとっても愛しているような印象を受けましたが、小説では娘のことを心の中で「このひと」と他人のような呼び方をしていた事に少々驚きました。しかしそれは特別変な事とは感じさせず、劣等感や羨望、諦観、憎悪、とにかくいろんな激しい感情を心の内側に押さえ込んで舞台でも実生活でも区別なく演技をし続けると言いう狂気じみた生き方を生々しく描写していきます。いやほんとやばい。(語彙力低下中)
ただこのお話がどんなに陰鬱としていても心に響く余韻があるのは、いざなさんは娘のことを本当に愛していたと力強く示してくれたからではなかろうかと思っています。娘から母親への恋しさは漫画で描かれていますが、母親から娘へも深い想いを抱いていたという事が小説によって描かれ、繋がりました。
漫画ももうすぐ最終回。この小説を読むと母親と同じ足跡をたどってきたかさねちゃんが、お母さんの足跡のその先へ本当の自分で飛び出していくような、そんな未来を予感させます。もがき苦しみながらも一生懸命前に進むその姿が、私はとっても好きですし美しく思うのです。

小説の話題ではないんですが、好きな作家さんの向山貴彦さんが今月亡くなられたとのお知らせが、スタジオ・エトセトラのHPでありました。
まだまだお話の途中である ほたるの群れが最後に更新されてからもう4年近く。次なる波乱が待ち受けているだろう二学期を目前にして永児くんの物語は夏休みのままで止まっていましたが、これからもずっとそのまま続く事になったわけだなぁと静かな思い浸っております。
正直、ほたるの群れの続きが難しくなったことは残念ですが、それ以上に大好きな作品の作者さんがいなくなってしまった事がとてもとても寂しいです。
作者さんの作品の中でも童話物語が特に好きなんですよね。この素敵な作品に出会えたのは本当に大切な思い出です。

乙女ゲームの破滅フラグしかない悪役令嬢に転生してしまった…


小説家になろうの作品のページへ

最近kindleで買った本の総数が1800冊とかになってきて、購入数にビビるというより電子書籍のスペースの取らなさが本当に半端ないなとデジタル万歳な生活を送っております。ちなみに9割5分が漫画です。これ本棚に並べたら、部屋の壁一面を覆うどころか二面ぐらい必要なんじゃなかろうか。
そんな感じでそこそこ冊数も増えてきますといろんなキッカケから作品を知ることになりまして、本日のこちら「乙女ゲームの破滅フラグしかない悪役令嬢に転生してしまった…」はゼロサムオンラインで無料公開されているコミカライズの方から知った次第なのです。公開されている分のコミックを読んで妙にほのぼのしちゃって月一の更新をささやかながら楽しみにしていたんですけど、1ヶ月か2ヶ月くらい経って月間は遅すぎ!となって小説家になろうにある原作のページにたどり着きました。
このお話は現代の女子高生が事故で死んじゃった後、乙女ゲームの悪役キャラとして転生するって内容なんですけど、まぁそんなところを一生懸命説明してもあんまり意味はないと思うので、ぶっちゃけわざわざ文字だけのなろう版原作を読まないでWebで公開されているコミックを読んで大人しくカタリナさまをお慕いしておりますわしていれば良いと思うのです。
せっかく流行の異世界転生をした割にはチート能力なんてものは何も授けられなかった主人公の女の子のアドバンテージは、ここは前世の自分が死ぬ直前までプレイしていた乙女ゲームの世界だと気付いたことと一般的な現代ハイスクールライフの記憶だけ。しかも自分はそのBLゲームに出てくる主人公(女性)のライバルキャラで、悪役令嬢として主人公への妨害の限りを尽くした後にゲームのハッピーエンドでは国外追放、バッドエンドならぶち殺されるという運命が待ち受けているというのです。この死亡エンドを回避するためにあちこち奔走するのですが、現代知識すらほとんど使わずに釣りに木登りにと駆け回るばかりの姿は笑えます。コメディ調のお話はとにかく辛い展開とかに一切ならず、辛い事なんか現実で十分足りてますよな私にはこの優しい世界に大層心安らぐ思いなのです。
あと、なろう版の良いところは短いながらも綺麗にまとまっているところですね。ゲームのエンディングっぽいところで終わっているので満足感もあります。コミック版で続きが気になったら、あらすじを確認する感じで覗きに行けます。といかコミック版の出来が良く出来過ぎてますよ。原作は非常にシンプルな描写をしていますので、原作そのままのセリフでも絵が付くとグンと説得力が増します。というかそいういうぴったりな絵を用意できるコミカライズ担当の方が凄いです。
小説家になろうにあるお話は癖が強いのが多いですけど、自分の性癖にばっちり来ちゃったんだからしゃーないのです。

以前遊んだEverlasting SummerのiOS版に追加シナリオが来ていましたので遊んでみました。
アップデートしたらセーブデータも全部消えましたけど仕方ないね。仕方ないね…。
というわけで以前の日記にプレイの感想を追記です↓
英語で美少女ゲーム「Everlasting Summer」

ヒストリア

ヒストリア


池上永一さんの4年ぶりの新刊は、表紙にチェ・ゲバラ、テーマに戦争を持ってきて、作者さんが大好きな私でも思わず「うわぁ、買いづらい」と思うほど重苦しそうな雰囲気が漂っております。まさか池上永一さんがチェ・ゲバラという実在の人物焦点を当てて、史実に則ったシリアスなフィクションを描くなんて。
いつもの底抜けに明るくて元気になるようなお話は語ってくれないのかしら、そう一瞬だけ思って心の底では微塵も信じてない私でしたが、その予想通り今回もご用意されております波乱万丈ジェットコースター型の人生疑似体験。特にチェ・ゲバラは完全に脇役で、読み終わってみるとなにキミ主人公みたいな顔をして表紙を飾ってるの?って感じです。実際読者が強制的に壮絶人生の絶叫マシーンに相乗りする事になる主人公は、沖縄県在住の少女 知花 煉(ちばな れん)さん。1945年3月の沖縄本島にて米軍の爆撃の真っ只中を全力疾走で逃げ回る彼女は、両親、兄弟、友人知人に家も財産も全て失うところからスタートします。作者さん特有の強烈な精神的タフネスを備えた漢乙(おとめ)思考の女性が、幾多の困難に叩き潰されながらもあらゆる敵に戦いを挑むことになります。彼女の敵は米軍だったり諜報機関だったり、洪水だったり疫病だったり、そして借金だったりと多種多様です。代わりに彼女は倫理観が欠如してるんじゃねぇかってくらいの大胆な発想と、こいつ頭がおかしいんじゃねぇかってくらいの狂気の行動力を武器にして、それでも駄目なら拳を使って数多の戦争のような日常を駆け抜けます。
本日読み終わりましたこちらの「ヒストリア」は、そんな怒涛の人生を強制体験させるアトラクションへの招待券みたいな一冊です。
主人公の知花 煉さんはお話の冒頭であらゆる財産を失った後、闇市の物々交換から生活基盤の立て直しを始めます。このお話のメインは普通に食べて普通に着飾って普通に寝る事、普通の生活を手に入れることになるでしょうか。戦争によって日常が崩壊した世界から脱出するために、やがては日本の沖縄から南アメリカボリビアへと飛んでいきます。南アメリカラテンアメリカ
あのマジックリアリズムで知られるラテンアメリカ文学の地で、池上永一さん流のマジックリアリズムが奇しくも炸裂するなんて。さながらガルシア・マルケスの"百年の孤独"のように、主人公達はボリビアの未開の地で樹木を切り倒しコロニア・オキナワを創設するのです。ただし100年も過ぎないし世代交代もしません。最初から最後まで知花 煉さんの激闘のお話です。しかもその凄まじさは思わず笑いが出るほど滅茶苦茶で、金持ちになってもしょっちゅう無一文に逆戻りしたり、畑で作物を育てていたらいつの間にか国際犯罪の片棒を担がされていたりと、これでもかというほどの困難を作者さんは用意しています。そしてそれらを作者さん持ち味の軽妙な言葉遣いとユーモアで、ゲラゲラ笑わせられながら楽しませてくれるのです。マブイ(魂)落としとかは作者さんお馴染みの要素でしたが、主人公から分裂した魂が普通に主人公に成り代わってて笑いました。もう一人の自分が生活を脅かしてくるなんてホラーかサスペンスになりそうなものですが、何故か笑いも混じってくるのがこの作者さんの好きな所です。お馴染みの謎キャラ北崎倫子もこっそり出てました。
普通に笑って普通に泣く普通の主人公なんですが、池上永一さんはそれに普通じゃない不屈の闘志を必ず持たせるのです。まさにヒーローの如き活躍に、いつだって私の胸は夢と期待でワクワクさせられちゃうのです。

The Toaster Project: Or A Heroic Attempt to Build a Simple Electric Appliance from Scratch

The Toaster Project: Or a Heroic Attempt to Build a Simple Electric Appliance from Scratch


また地道に英語の勉強代わりに洋書を積み上げています。めっちゃ苦労するのは相変わらずです。
さてまた一つ読み終わりましたコチラの本「The Toaster Project」。
日本語の翻訳版だと「ゼロからトースターを作ってみた結果」ってタイトルになっています。匿名掲示板のスレッドタイトルみたいです。
副題に「〜 from Scratch(最初から、ゼロから)」とあるように、この本では一般的なトースターの製作を素材作りからやってみる事に挑戦したイギリス人学生の、数カ月に渡る悪戦苦闘を愉快にまとめたドキュメンタリーとなっています。素材から作るというのは単純に、トースターの本体に鉄が使われているのなら鉄鉱石から鉄を抽出することから始めます。プラスチックで部品を作りたかったら、ブラスチックを作るところから始めます。それから加工して組み立ててトースターに仕上げます。実にアホですね。素敵過ぎます。
ちなみに最終的にどんなトースターが出来上がったかというと、表紙に載っている写真がまさにソレ。あれ、トースターだったんだ…ってなること請け合いの衝撃的なビジュアルに、このプロジェクトが如何に難航したかが窺い知れますね。
著者の Thomas Thwaites(トーマス トウェイツ)さんは当時学生さんでして、アートの大学院の卒業制作でこの「トースタープロジェクト」を実施したそうです。何故こんな事をやろうかと思い至ったのか理由はいろいろ書いてありましたが、英語だったのでよく覚えていません。ダメじゃん俺。でももっともらしい理由でいくら取り繕っても、結局のところ「面白そうだったから」ってのが一番の動機じゃないかなと思いますけどね。だって、「素材作りから始めてトースターを作ってみました。結果はこれ(表紙の写真)です」って見せられたら一体何をどうしてトースターに見えないこれをトースターと言う事になったのか、すっごい気になるじゃないですか。
では目出度くトースター作りに取り掛かることになったとして、ゼロから作るとはいったいどういう事かを決める所から本書は始まりました。素材から作るといったって、例えば鉱石から金属を抽出するとしてもその鉱石を加工するための火はどうするのか、マッチを使うとしたらマッチを作るのか、マッチを作るための道具を作ることから始めるためにまずは素っ裸の状態から始めるべきなのか、そして私は散歩をしている人に通報されて警察のお世話になるのだろう…ってな感じで思いっきり脱線しながら、とりあえず地面から掘り出すのはOKという具合に落ち着きます。鉱石を作るためになんやかんや宇宙を創造する案は却下されました。
次に使う道具ですが、これも産業革命以前から変わらないのものだったらOKという事にしたようです。石を使って根性で木を削れるなら、同じ動作で鉄製品を使って時間を節約するのはアリという事です。その解釈を広げて電動ドリルはOKだけど、3Dプリンターは無しとの事。パッと見て作り方が分からなくなるような工作はしないという感じですかね。まあそれでも困難にぶち当たる度に拡大解釈とルールの再定義を行って強引に進むなど、割とフリーダムな感じで解決を試みるのが笑えます。鉄の抽出に何とか成功しても微妙な調整が難しくて不純物が多く混じってしまうという事で、最終的には火を使わないで電子レンジを使った精錬を行いますからね。とりあえず火力で溶かすところまでは出来たんだから、同じ高温にするまでの手段は大目に見ましょうという事です。
そんなこんなで原材料を求めてイギリスから西へ東へ各地の鉱山を巡る旅へ出発です。有識者のアドバイスを貰いながら、鉄、雲母、プラスチック、銅、ニッケルを集める事になります。ひとまず市販のトースターを分解して、必要最低限な原材料をまとめた結果がこの5つになったんですと。分解途中でコンデンサトランジスタなんかの電子部品が出てきたときに、これも一から作るのかという著者の葛藤と早々の妥協が笑えます。
数多くの困難にぶつかる中で果たしてトースターは完成するだろうか。当然表紙の写真のように完成はしますが、そこに至るまでの過程がメインですので道中の展開がとても楽しいです。そして少しふざけた題材を語る時に大真面目な言葉を使用すると面白さが引き立つってものですから、トースター作りを通してゴミや環境問題、自作のトースターに比べて滅茶苦茶安くて高性能な市販のトースターが売られている理由なんかについての思いも語られましていろいろ楽しむことが出来ました。
その代わり途中の英文は妙に難しかった感じです。大真面目に格好つけて語るものだから、もう単語が全然わからなくて非常にきびしー!読む前に電子辞書の履歴を消しておいてどのくらい単語を調べたか分かるようにしてみましたが、読み終わりまでに調べた英単語はだいたい277種類となりました。まだまだ苦労しますね。しかも単語の意味は分かっても、文章の意味が分かるかどうかは別問題という。
ノンフィクションは読みやすいと今までの経験から思っていましたが、内容の愉快さとは裏腹に予想外に手こずった一冊でした。