ビッグ・ファット・キャットの世界一簡単な英語の大百科事典

ビッグ・ファット・キャットの世界一簡単な英語の大百科事典


もし英語の小説を読めたらステキな事じゃなかろうかと、ふと思い立ったことが昔ありました。
ただその頃はもう就職もすんじゃって学校で勉強した事なんか忘れちゃってましたので、英文が文章じゃなくて絵や記号にしか見えなくてさあ大変。カチカチに凝り固まった脳みそをほぐすのに大分苦労した思い出があります。あの頃に初めて受けたTOEICが450点でしたが、なんやかんや勉強して810点を取れるくらいにまでなりました。結構時間がかかっちゃいましたけどね。
英語のお話を楽しむための勉強で多くの本と出合ってきましたが、その中でもビッグ・ファット・キャットBFC)シリーズは確実に私の原動力となった作品の一つです。
のんびりと「ビッグ・ファット・キャットの世界一簡単な英語の大百科事典」を読みました。
なんか最初はシリーズ一作目の「ビッグ・ファット・キャットの世界一簡単な英語の本」の改訂版を作るつもりだったのに、作っているうちにせっかくだからと新作になった経緯があるらしいこちらの本。ですので基本的なコンセプトは「世界一簡単な英語の本」と同じで、英語の構造的な話や英文のイメージの仕方をなるべく文法用語を使わないで説明してくれる解説書となっております。学校でよく習うような文法の説明はほぼありません。受験英語とどっちが分かりやすいかとかそういうのは無いと思う。英語の授業で分かりにくかった英文が、この本の方法で読んだら理解できるかも…くらいのニュアンスとでも言いましょうか。どちらが優れているとかではなくて、違った角度から英語を眺める良い機会になる本だと思います。あれもこれもやって、地道に英語の理解を深めていくのさ〜。
そして微妙に変えてきたにもかかわらず相変わらず誤解を招きそうなタイトルをあえて説明するなら、「世界一簡単な"言語である"、英語の大百科事典」だと思われるので、別にこの本が超簡単なわけではありません。かなり優しい部類ではありますけどね。あとあんまり百科事典って感じでもない。
ただ悩ましきかな、もともとは初代のリメイク的な位置付けなのでシリーズで一番最初に読むような解説書なのに、完全新作になったせいでストーリー的には最新作という若干の気になっちゃう点が存在します。英文の解説のついでにパイ屋のエドとデブネコのお話が進んでいくのですが、この本に出てくる登場人物のバックグラウンドは前BFCシリーズ8冊で既にだいぶ語られていて思いっきりその続きから始まっているのです。かといって前作最後の「ビッグ・ファット・キャットと雪の夜」をクリアしてから読むほど準備をしなきゃいけない英文解説書ってわけでもありません。さてどうしましょう。まぁ、そんなの私には関係なかと。なぜならBFCシリーズはお話自体が面白いからね。ちょっと短いけど、面白い英語の小説が読みたいといつも探してる私には満足な一冊でございました。
今回のお話はパイ屋のエド君がまた自分のお店を持っている状態からのスタートです。前作で店を失ってひと悶着あり、ホームレス生活にまで落ちぶれてひと悶着ありの出来事を微塵も感じさせない、穏やかな日常を送るエド君。いつも通りデブネコがエド君のパイを盗りにやってくるシーンがありますが、彼のパイに対する執着が過去にどれほどあったかも触れることはありません。本文の英文の解説で作者さんが、分からない箇所は飛ばしても大丈夫です練習してみましょう、と20数行の英文を2,3行に大胆にカットして意味は何となく分かるでしょうとやっている事に近いものを感じます。というわけで前作を読まなくても楽しめる配慮はされているようでした。もちろん読んでるといろいろ楽しめるけどね。ヘッヘッヘ…。
前作まではエド君をガンガンどん底人生に突き落としてきた作者さんでしたが、今回はエド君の恋のお話という非常に温かなエピソードが語られます。完結編だった"雪の夜"の帯で「彼女もいないのに終わっちゃったよー!」と叫んでいたエド君の願いが、ここにきて神(作者)様に奇跡的に届いたのです。信じられん。新キャラの女性との出会いはこの本からでしたが、短いながらも思い出に残る過去話をしっかりと伏線にしいてワクワクさせるお話に仕立て上げる作者さんの手腕は相変わらず素敵です。子供の頃にとある約束をした思い出の女の子ですってよ。そんなんいたら誰だって羨むわ!私の場合はもう遠い記憶過ぎて、深く考えるといたんじゃないかという偽の記憶をでっちあげてしまいかねません。そんな女の子がいた記憶もないが、いなかった記憶もない。あれ、ならいたっけな?(混乱)
それはともかくエド君の思い出から30年、たまたま道すがら出会った女性にエド君は一目惚れして、なんとか恋心を打ち明けようとあれこれ思い悩むのでした。そんなお話。
ある意味一番エド君に惚れているのはお前だろうこと、前作のラスボス お金持ちのジェレミー君は、前作から助走なしのマックススピードでエド君にちょっかいをかけてきて笑いを誘います。同じパイ屋ながら大手チェーン店のオーナーであるジェレミー君と小さなパイ屋のエド君との経営力の差は歴然なのに、「俺の方が腕が上だ」「もう一度勝負しろ」「臆病者」ってわざわざお店まで出向いてだべっているあたり実に仲良いな君たちって気持ちになります。第一印象が嫌味な金持ちのジェレミー君は、今作でも相変わらず株を上げる良い奴っぷりを見せてくれて、おまけにあくまで本人はエド君にデレないという期待を裏切らない活躍を見せてくれました。態度はツンツンだけど、お店の出店スペースを用意しちゃう、思い人を追いかけるエド君の為にスーパーカーだって運転しちゃう。なんで断らないんだろこの人。ラヴですね。
短いと言いながらも40ページほどある物語部分は、英語が苦手な人にはなかなか大変な分量でしょう。このBFCシリーズでは英文から受けるイメージを大切にしているためか、全部を日本語に訳してはいません。今は読めなくても、いつかまた読み直したときに分かるようになっているはずという想いが込められているのでしょう。じゃあいつになったら読めるようになるかといえば、それは私にもまだ分かりません。
まったく英文が読めない人から見れば、辞書で沢山調べながらでも読み進められている人は英語が分かっているように見えるでしょう。そんな人でも、辞書なしで適当に読み飛ばしてすらすら読んでいる人を見ると自分はまだまだと思うでしょう。適当に読み飛ばして大まかな意味が分かる人でも、結構細かいところが分かってないなと思ってたりするでしょう。区切りがさっぱり見えません。
でもそういう悩みに対して何らかのヒントを示そうと、この本はあれこれ気を回してくれているようでした。そんなお話がいっぱい詰まってます。