転生者オンム・セティと古代エジプトの謎 3000年前の記憶をもった考古学者がいた!

転生者オンム・セティと古代エジプトの謎―3000年前の記憶をもった考古学者がいた!(ハニー・エル・ゼイス×キャサリン・ディーズ著)


好きな本 ぼしゅうのコメントより。
>あるイギリス人女性のノンフィクションです。彼女は前世でエジプトのファラオ・セティ1世と恋人だったことがあり、今世で彼の魂と再会するという内容です。彼女の体験を信じるかは個人に委ねられると思いますが、私はその真偽よりも、彼女の強い意志に心を動かされました。未読でしたら、ぜひ。



おすすめの情報を頂きました。ありがとう!(絶版だから中古でゲットしたよ!)
古代エジプトに実在したと言われるファラオ・セティ1世と恋人だった過去を持つ女性が、転生の末に現代で再開するというノンフィクション作品。
( ゚Д゚)  …え、ノンフィクション!?
前世とか転生とかちょっぴりア・ヤ・シ・ゲ☆なワードが飛び交うあらすじに混じる衝撃のノンフィクションの文字。死後の世界は本当にあったんや!と興奮とも混乱とも見分けのつかない異様なテンションの高まりに一瞬我を忘れそうになりましたが、実際に読んでみると非常に真っ当なノンフィクションであり、なにより古代エジプトの謎にまつわるドラマに夢が広がるドキドキとワクワクのお話でした。
そんな感じで本日はこちら「転生者オンム・セティと古代エジプトの謎 3000年前の記憶をもった考古学者がいた!」よりお送りします。
このお話は実在するエジプト考古学者、オンム・セティ(イギリス人女性で本名はドロシー・ルイーズ・イーディー)の古代エジプトの謎を探求し続けた生涯を綴った評伝となっています。古代エジプトへの深い造詣と直向きな情熱で考古学者たちの中でも特別な敬意を払われていた彼女は、長年隠していた秘密がありました。ずっと昔の彼女が3歳の時、自宅の階段から落ちて頭を打ってから、ドロシーは見たはずの無い巨大な柱や美しい建物の夢を度々見るようになったのです。自分はそこに暮らしていたのだという感覚も蘇ってきたのですが、そこがいったい何処なのか幼いドロシーには知る由もありません。転機が訪れたのはドロシーが4歳の時です。家族に連れられ大英博物館に出かけた際にエジプト室で彫像や動物の頭をした神々の像を一目見て、自分が知っているのはまさにこれだ!と不思議な記憶の正体に辿り着きます。この瞬間から、彼女の生涯まで続く長い長い古代エジプトへの歩みが始まったのでした。
前世の記憶なんていう正直眉唾ものの話はにわかには信じ難いですが、オンム・セティの考古学への執念を理解する上では欠かせない要素であり、さらに彼女の人生を決定付けた事実としてまさにこの本がノンフィクションであるという事は疑いようがありません。オンム・セティの友人でありこの本の著者であるハニー・エル・ゼイスの目を通して描かれる彼女の姿は生き生きとしていて、時に悩み、時に笑う一人の普通の人間として存在しているのです。3000年前の恋人と夜な夜なランデブーをするなんてちょっぴり変わった習慣はあるけれど、彼女が疑問に思い探求して語られる古代エジプトの姿は、実物を観察して得た認識や実際の発掘のデータを交えて驚くほど理論的に説明されます。説明を聞いていて理屈がしっかりしているからお話に引き込まれるし、何より遥か数千年前のドラマが読んでいて楽しいんですよね。
オンム・セティの恋人としてやはり外せないのが、紀元前1290年に亡くなったエジプトのファラオ、セティ1世でしょう。ファラオのセティ1世と紀元前の当時に神殿の巫女(10代)だったオンム・セティは、まぁ神様に仕える巫女だから男はダメだってのに相思相愛になっちゃって、案の定オンム・セティ(前世)は人生の引導を渡されることになるんですよね。己の至らなさに嘆き悲しんだセティ1世は自分が死んだあと根性でオンム・セティを見つけ出して、夜な夜な枕もとに立ってアイラブユーアイニードユーと3000年ぶりの再会を堪能するわけです。ただそこで交わされる会話が男女の会話だけでなく、現代で未だ不明なファラオたちの墓やピラミッドの謎についての問いかけなんかも多分に含まれているのが面白いです。マジかよ!当時の人間に現地の様子を聞けるとかほとんどチートじゃんかよ!他の考古学者たち涙目じゃん!といきそうでそうもいかないのがなかなか憎らしいところ。例えば「あのピラミッドってどうしてあんな形で建てたの?」と質問したら、セティ1世さんは「いや、俺がいた頃にはあれ、既に築1000年経ってたし…。知らん」と答えるしかないなど、3000年程度昔じゃまだ辿り着けないエジプト文明の奥深さに改めてびっくりです。私も西暦5000年の未来人から「藤原道長っているじゃん。アイツどんなだった?」とか聞かれても、「確かにお前の時代から比べれば21世紀初頭の俺の方が近いが、1000年前の人物の人柄なんか知るわけねーだろ!」と文句の一つでも言いたくなってしまいますね。
まぁ何から何まで答えられないわけではなくて、セティ1世は当時の情勢についてちゃんと話してくれる事もあるんですよ。それが本当にセティ1世の幽霊から語られたのか、それともオンム・セティが長年の経験と観察で得た知識なのか不明なところがありますが、そんなことは大した問題じゃありません。大事なのはオンム・セティは確かなエジプト考古学の知識を持っていて、何より古代エジプトを心より愛していたということ。生まれたロンドンから離れてエジプトの寂れた土地に一生住もうと元気に飛び立っていったこと、そして寝ても覚めても遺跡に出発して発掘作業に従事していたということなのです。この直向きな姿勢が他の考古学者たちを魅了し、彼女への敬意となって多くの人々へと話が伝わり、やがて遠く離れた日本の私にも聞こえてくるほどになったのでしょう。
残念ながらオンム・セティは、もう30年以上も前の1981年に亡くなっています。彼女は生前に発掘作業の他に、地元で観光客相手にセティ1世葬祭殿の案内もしていたそうです。その土地にまつわる話題も豊富で結構評判も良かったらしいのですが、そりゃそうでしょう。この本を読んで古代エジプト文明にも、オンム・セティその人にも私はすっかり魅了されてしまいました。オンム・セティに会えて、しかもこの人にセティ1世葬祭殿の案内までしてもらえたら、それはさぞ素晴らしい思い出となったでしょう。この本を読んだ人はきっとみんな思ったはず(そしてちょっぴり哀しくもなったハズ)。私はそう思いましたね。