小説家の作り方

小説家の作り方 (メディアワークス文庫)


好きな本 ぼしゅうのコメントより。
>野崎まど先生をおすすめします。ブログを拝見したところ、アムリタ以外は読んでいらっしゃらないようですので…(読んでいましたらすみません)
"舞面真面とお面の女" "死なない生徒殺人事件―識別組子とさまよえる不死" "小説家の作り方" "パーフェクトフレンズ"を読んだあとに『2』を最後に読めば終わりです。(2以外はどれから読んでも大丈夫だと思います)


おすすめありがとうございます その3。
前回の死なない生徒殺人事件 〜識別組子とさまよえる不死〜に引き続き、どんどん読んでいきたいと思います。
本日はコチラの本「小説家の作り方」よりお送りします。
今回のお話の主人公は、エンターテイメント系のジャンルを主に執筆している若き小説家です。小説家のお話を小説で描くという、よくあるメタフィクションっぽいお話ですね。こういうお話の場合は多かれ少なかれ作者さん自身の実際の考えが反映されると思うのですが、主人公は現在デビューして2年で小説を4冊を出版したという、この「小説家の作り方」でちょうど4冊目の小説を出版したデビューして2年の作者さんと設定がそっくりな時点で、結構開き直って自身をそのまま反映しているんじゃなかろうかという印象がします。ですので今まで作者さんの作品はどれもミステリーっぽい作風のものだった割に、作中の主人公が自身に向かって「ミステリは向いてないのかもしれない」と発言した辺りは思わず笑ってしまいました。自虐ネタみたいな面白さが生まれるのは仕方ないですね。
お話はいつものように編集者と新しい長編に付いて打ち合わせをしていた主人公、物実(ものみ)が、初めてファンレターを貰ってウキウキるんるんしちゃう場面から動き出します。内容は普通の熱心なファンレターでしたが、それに返信をした後に届いた2通目のファンレターが問題でした。相変わらず作者さんの熱心なファンであることに代わりはありませんが、あることに悩んでいる旨が内容に添えられていたのです。そのファンは、「この世で一番面白い小説のアイデアを閃いたけど、どうしても小説の書き方が分からないのです」と敬愛する主人公にぜひとも小説の書き方をレクチャーして欲しいとお願いしてきたのです。数式の驚くべき証明を得たけどページの余白が足りないから書けないやー残念だわーとやったフェルマーみたいな真似をしますね。怪しさ満点、でもこの世で一番面白い小説のアイデアだなんて魅力も満点です。どうする!
結局魅力には勝てず、メールの差出主の紫依代(むらさきいよ)(長髪の美人)(コノヤロウ!)に会ってお話を聞くことになります。少々おっとりしたお嬢様っぽい雰囲気の依代さんの「小説の書き方教えて!」というお願いをはぐらかしつつ「この世で一番面白い小説のアイデア」を聞き出そうと探りを入れますと、どうしても伝え方が分からないのですと簡単には教えてくれません。変に意固地な依代さんからそのアイデアを聞き出す方法は明確です。彼女に小説の書き方を教えてこの世で一番面白い小説を執筆してもらうこと!タイトルの「小説家の作り方」の通り彼女を立派な小説家に育て上げ、「この世で一番面白い小説のアイデア」の謎を解き明かすミステリーが開始されたのでした、という感じのお話です。
小説家を作るというか、要望通りの作品を作らせる辺りは編集者の仕事が近いような感じがしますね。ともあれ奇妙な縁で始まった小説家講座を通して描かれる成長と交流の物語は、読んでいて和やかな気分にもワクワクな気分にもなって楽しいです。そんでケーキの蝋燭の火に手をかざす場面とかでは、思わず涙が出そうなくらいグッと来ちゃいましたよ。ああいう純粋な気持ちの行動っていうの?可愛らしいような健気なような感じが優しい気持ちになれて、そういうの弱いんだよなぁ俺。実生活に優しさが不足してるせいですなぁ!
ミステリアスな雰囲気のお話に相応しい驚きと盛り上がりのあるクライマックスを迎え、お話は割かし綺麗な結末を迎えました。これは続編前提とかそういうのを感じさせない、スッキリとした終わり方をしていましたね。多少は気になる言い方をしていた部分もありましたけど、最近読んだものと比べてね。もちろん続編不可能な終わり方じゃないから続けることは出来るでしょう。でもそれはまた別問題です。
ラストの依代さんの恥ずかしがり方、お母様となんだかそっくりで思わず笑ってしまいましたよ。