【海猫沢めろん】ニコニコ 時給800円

ニコニコ時給800円 (集英社文庫)



お仕事を1時間頑張って、800円。ちょっと心もとない。
大人になって初めて会社で働く時期なら、1.6倍の時給1300円は欲しい。
女のひとに振り向いて欲しいなら、時給は2500円くらいあれば心強い。届く気がしない。
時給800円くらいで働く人にスポットを当てた連作短編集、「ニコニコ 時給800円」。別にドキュメンタリーでもなんでもないので、中で働く人たちの真偽は霧の中。でも作者さんの実体験がまったく入っていないとも考えられないので、不気味な現実感が漂う労働環境。何はともあれ、働くって大変です。そんな感じのお話の、始まり始まり〜
作者さんのやたらラストが熱い「零式」というシリアスなSF作品を以前読んだことがありましたが、それとはポップに雰囲気が変わりまして適当な人間たちが沢山出てくるお話でした。適当に仕事をしているから時給が800円程度。でも時給800円程度の責任だから適当に生きていくことが出来る。そんな価格設定と、そんな価格で不満も満足も適当に充実できる人たちのお話です。
割と意味不明なオチで終わる短編だなと思いきや、次のお話の中にこっそり登場人物たちのその後が紛れていたりして、不思議なタイミングでお話の結末が分かります。何とか働いていける自分の今の状態から見れば、作中の適当さ加減も他人事だと思ってニコニコ笑って見る余裕があるってもんよ。責任は無いけど、どうしても行き詰まり感がにじみ出るバイト環境に共感し過ぎないことがポイントさ。
さらりと読んだ一冊でした。