セブンスホールの魔女

セブンスホールの魔女 (ガガガ文庫)


穏やかな春の日差しが心地よい暖かさ感じさせ、疲れた気分を優しく包み込んでくれる。今日は休日。
人は心にゆとりが生まれると、ムチャをしたくなるものである。「久々に、テキトーに選んだライトノベルでも読んでみるかな!」
ライトノベルの適当買い。それは素人にはお勧めできない危険な行為である。見知らぬライトノベルの世界に飛び込む前に、私は必ず自分に言い聞かせる事がある。それは覚悟だ。例えば可愛い女の子というものがいたら、当然私は嫌いなはずがない。誰にも負けない圧倒的な力を手にすることが出来るのなら、当然私はそれに憧れる。言ったな、その言葉に二言は無いな俺。喜べ俺。今から読むお話には可愛い女の子も超強い武器もきっと出てくるぞ。よかったな、それならこのお話は最高に楽しいものになるじゃないか。そうだな、俺。私の覚悟は完了する。
このお話「セブンスホールの魔女」は、超強い魔力持ちの主人公アカザがその魔力を封じられて仕方なく会社員をやることになるお話だ。雇用問題は今も昔も取り沙汰される話題だが、近ごろは多少収まってきたとは言え新入社員や、取り分け中途入社の社員に要求されるスキルは求職者には過酷なものだ。このお話の主人公は一流の技能の持ち主であったが、封じられることによって目立ったスキルの無いただの若者へと役割を落としてしまう。彼はまさに現代社会で生きる、多くの普通の若者の写し絵となったのだ。新しい人生を余儀なくされた彼に待ち受ける未来は過酷なものだが、彼と境遇を同じくする若者は共感を覚え、彼の姿に希望を見出すことになるだろう。彼と我々の違いはチャンスがすぐに来ることだ。なんと言ったって物語の主役なのだから。私にはすぐにチャンスは来ないかもしれないが、同じスタートラインから先に旅立つ彼の勇気を見れば、私にも一歩を踏み出す勇気が湧いてくる、そんな気がしてくるようだった。
お話が始まると、アカザは銃を取り回してビルの間に蔓延る怪物たちを蹴散らし始めた。というかどこだここは。日本か。荒廃した現代日本なのか。混乱を余所にアカザはボスっぽいキャラにつかまり、呪いを掛けられていた。台本通りである。そして能力をなくしたアカザは悲痛の面持ちで自宅に帰り、自宅に来た民間企業の役員にスカウトされ、会社の社長になった。あっという間にアカザは現代日本の若者の写し絵ではなくなった。俺は泣いた。
社長になったアカザであったが、社長になって初めの三日間の業務は、言われるままに返事をして書類を作成する事だった。というかほとんど仕事はしていなかった。境遇は既に現代日本の若者ではなかったが、言われるままに頷くしかできないアカザの人物像は現代日本の若者そのものだった。しかも新入社員で挨拶に来たらフロアの人たちに「あぁ…(ため息)」と思われるくらい覇気の無い、よくいる普通の若者であった。共感できない境遇と、共感できるが見せつけられたくない人間性を合わせ持った最低のアカザが誕生した。俺は泣いた。
一応、お話の見せ場として社員の魔女と協力して激しく戦う場面がちょくちょく出てくる。というか作者が書きたかった部分は、正直そこだけじゃないかという思いがしてくる。だって読んでて安心するんだもん。
私はそっと目を閉じ、初心を思い出し始める。今回出てきた女の子は、ハル、サカナ、オーガスト、フラン、コルコ…どれも可愛かった…。アカザは戦闘になると超強かった…。魔力を使ったら死ぬ呪いをかけられたアカザが、クライマックスじゃないピンチの時に魔力を使って本当に死んだときは…笑った…。
どうだい…面白かったろう俺。「正直、イマイチかな…」