【上橋菜穂子】蒼路の旅人

蒼路の旅人 (新潮文庫)



既刊の精霊の守り人シリーズを見ると、このお話の後に残るは天と地の守り人3部作のみ。大舞台へ向けての最後の助走とばかりに、もう一人の主人公、チャグムくんが一世一代の大勝負へと出かけるお話となっていました。物語は予断を許さぬ緊張状態を維持し、もーこれからどーなっちゃうの?と読んだ人間をやきもきさせながら、最終章へのバトンを繋ぎます。
そんな感じでこんにちは。守り人シリーズ6作目「蒼路の旅人」よりお送りしていきます。
守り人シリーズは短槍使いのバルサさん、タイトルに旅人と名前が付くものは1作目に事件の中心人物となった皇太子さまのチャグムくんがメインとなる分担の通り、今回はチャグムくんがメインで頑張ります。主人公が変われば立場も変わる、立場も変われば物の見え方も変わりまして、国家レベルの存亡の危機を前にどうしようもない戦いを強いられる苦悩を読者も体験することになります。バルサさんは槍を使わせたらめっちゃ強い主人公でしたからね、立ちはだかる敵がなんであれ槍をブンブン振り回してなぎ倒していくある種安心感のあるお話でした。いやー、でもあれって目の前の敵が自分より強いか弱いかの極狭い視野でしか周りが見えていなかった事が、今回の事でよくわかりますね。襲い繰る敵の数は兵20万とも戦艦1000隻(うろ覚え)とも言われ、自国の兵力の数倍にも及びます。いくらバルサさんが無類の強さを誇っているとはいえ、この戦力の差の前にはほんの足しにもなりません。もうバルサさんを満足させる敵なんて国の中にもそんなにいないんじゃないか?と余裕綽々だったあの日々はどこへ行った。むしろ主人公がこれからバルサさんに戻ったとして、バルサさんの意思でどうこう出来ることなんて何も無いんじゃないかという無力感すら覚えます。
お話はチャグムくんの住む新ヨゴ皇国が、タルシュ帝国という強国から侵略の恐怖に晒されている真っ只中から始まります。本格的な戦闘になるかどうかの瀬戸際で、決定的な有効打も見出せず混乱する国家の重鎮たち。内部での連携もままならず、私利私欲の混じった政治的駆け引きに嫌気がさしたチャグムくんは「うるせぇ腰抜けども!俺が出向いて蹴散らしてやらぁ!(意訳)」と敵地に乗り込んであえなく捕虜となってしまいます。「世継ぎもいるし、うっとおしいからアイツ死んじゃっても良いんじゃないの?(意訳)」と思っている帝お父さんからの助けは期待するだけ無駄というものです。タルシュ帝国に捕まり図らずも敵国の内部事情を見ることになったチャグムくんは、その確かな国力を前に自分たちの国が生き残る術がそう多くないことを悟ります。身分をおおっぴらにする訳にはいかないので、変装して敵国へと輸送されるチャグムくん。身分の違うものたちと一緒になって汗水流して働くと、チャグムくんは一時でも今の国の状況を忘れることが出来ました。船員同士の合図を教わったり、海に潜って一緒に遊んだりもします。船で寄った先で地元の美味しい食べ物をもらったり、巨大な建造物の数々を見たりして、驚いたり素直に感心したりするチャグムくん。チャグムくん、結構楽しんでないかこれ。
でもまぁ、帝国の内部事情を把握してもやっぱり簡単に服従するわけにはいかないもの。自分の近しい人たちが犠牲になるのは受け入れられません。チャグムくんはたった一人で敵国から脱出し、皆が助かる道を歩むため長い旅路へと歩み出すのです。いや、泳ぎ出してました。最初の目標は、近くの島への遠泳です。いきなり、脱落→即死のハードな展開だぜ。
お話は最高の盛り上がりを見せたところで今回は終了。次回へと続きます。タマラン!
ここまで読んだらいまさら本を投げ出すようなことはそうそう無いとは思いますが、それでもこの引きは続きが気になって仕方がないですな!