【上橋菜穂子】虚空の旅人

虚空の旅人 (新潮文庫)


一作目の精霊の守り人を読んで解説に書いてあったんですが、「旅人」ってタイトルについてると主人公がチャグムくんになるらしいです。いちおう守り人シリーズ?な4冊目。
そんな感じで今日は「虚空の旅人」です。
お話の時系列的には3冊目の「夢の守り人」から順当に経過しているようでして、バルサさんの近況は分からないまでも、今までにチャグムくんに降りかかった出来事を本人はしっかりと記憶していました。一国の皇太子さまのチャグムくんは、今日も立派に国の平安を願って生き抜いています。
槍使いのバルサさんが腕っぷしで物事を蹴散らしていくのに対して、皇太子のチャグムくんは強大な地位を武器にして厄介事を屈服させていくスタイルにでもなるんでしょうか。互いに個性を生かした戦闘スタイルで違った面白さを見せてくれます。例えば町娘が一人泣いていたとして、バルサさんが出て行って悪党をぶっ飛ばす展開も面白いですが、国のトップレベルのチャグムくんがそこらの悪党と関わるなんていうオーバースキルな展開も想像すると楽しいですね。
今回のお話は、お隣のサンガル王国で王位継承の祝典が開かれるとのことで、チャグムくんたちが政治的お付き合いの意味も込めてサンガル王国までお祝いしに行くお話です。まぁ国の代表として粗相の無いようにしながら、舐められないようにちょっくら威厳でビビらすくらいのお話ですよね。でもね、それじゃきっとドラマが足りないでしょう?って神様(上橋菜穂子様)が計らってっくれたおかげでね、サンガル国王暗殺とサンガル国征服の計画を混ぜ込んで、マジで戦争する5秒前なデンジャラスゾーン最前線へとチャグムくんは乗り込む羽目になります。マジでヤベーぜ!
シリーズの準主人公となったチャグムくんと、レギュラーキャラ入りで何かと出番がある星読博士のシュガさん二人で今回の事件に立ち向かいます。タイトルの「虚空の旅人」を代表して見事犠牲者に選ばれた小さな女の子は、魂を吹っ飛ばされて体を操られまくって破滅へ一直線!地元の馴染みの者たちは女の子の身を案じながらも、得体の知れない怪異に有効打は見出せず。地域密着型の王の息子は知人の娘という事で何とかしようとするけど、やっぱりあるよね黒幕の罠がお出迎えと来たもんだ。度重なる窮地に、チャグムくんは昔の自分を思い出してより多くの命を助けようと立ち上がります。チャグムくんはほんとにええ子やね…。
歳の近いタルサン王子との友人のようなやり取りを眺めるのも楽しいですし、女性が強く賢い国で女性陣がチャグムくんに一目を置くのもなかなか見ていて楽しいものがあります。接待役の国王の娘がいかに聡明な女性と言えども、チャグムくんの気品の前にはたんぽぽ程度の存在感よ。チャグムくん←サルーナさんは自然の理。ついでに夜這い用の秘密の通路を通ってきたタルサン王子も→チャグムくんでいいんじゃないかな。性の乱れが深刻だわぁこの王国。でもチャグムくんは年上好みだから残念ながら2人とも願いは叶わずですね(そもそも願ってない)。
そういえばこのシリーズ、何かと精神世界で戦う事が多いですね。意志の強さだとか想いだとかよくわからないもので、ふわふわとした決着がつけられるというのも物足りん。バルサさんは筋力派だからそういうの得意じゃないし。そんなんばかりだと見せ場が少なくなりそうだなぁ。
なんだかこの巻辺りから大河物語へと進むきっかけになるそうでして、この次にどんな大事が待ち受けているのかちょっとだけワクワクしますね。