【上橋菜穂子】夢の守り人

夢の守り人 (新潮文庫)


ファンタジー作品の守り人シリーズの3作目。精霊の守り人とか闇の守り人とか、○○の守り人って毎回タイトルに付いていますけど、いろんな種類の守り人に目覚めちゃった(巻き込まれた)人たちが出てくるからそういうタイトルになっているんですね。パターンが掴めてきました。
というわけで今回のバルサさん(31か32)が対面する得体の知れない怪異は、人にいい夢を見させてくれる魅惑の異界花です。3作目ですが、過去の話に出てきた人物が多く登場して若干同窓会みたいな雰囲気にもなっています。長いシリーズを過ぎたならともかく、盛大な別れをした割には再開早くねーかと少し思ったり。
さて今回のお話ですが、最近帝の御妃様が眠ったまま一向に目を覚まさないという噂が流れているそうで、同じころ近くの村人の中にも同じように眠ったまま起きてこない人間がぽつりぽつりと出てくるという謎の現象が発生します。そんなことはつゆ知らず、前作で寄った故郷からの帰り際にバルサさんは山中で追われている男を見つけました。どうやら犯罪者が追われているわけじゃなさそうだと見当がついたバルサさんは旅のついでに男を救出。一見無害な優男は礼を言い、自分はユグノだと名乗ります。見たところ20代に見えるこの男ですが、実は精霊の加護を受けて実年齢は52という特殊な経歴の持ち主でした。この時点で怪しさ満点の彼ですが、最近国で噂されている眠り続ける現象にもやっぱりというかどうやら彼が関わっているらしい。そんなわけで例に漏れず、バルサさんは厄介ごとに今回も巻き込まれていくのでした、という感じです。
1巻で舞台になった国と自分の家に帰ってきましたので、バルサさんの馴染みであるタンダとかその師匠のトロガイだとか、さらには帝の親族にも怪現象が発生していますのでチャグムくんとか星読博士とか帝の必殺仕事人たちとか、もういろいろ懐かしいようなまだそうでもないようなメンバーが出てきます。
若干「違和感あり!」と唱えつつも、久々の再開は心躍るものがあります。バルサさんと再開したチャグムくんが駆け寄ってきて抱きつく場面は実に良いシーンですが、ちょっと待てそこのガキお前バルサさんに抱きつくとかもう許されない歳じゃないのか?うずめたのか?顔面を肩だけじゃなくて胸にもうずめたのかコラ?ちょっと詳しく描写せんかコラと私の頭の中の妖精さんが囁く声が少し聞こえてきたりしました。まったく、妖精さんたちには困ったもんですね。
バルサさんは槍の達人という設定ですが、今回は夢の世界が舞台となっていまして自慢の槍も満足に振るう事がありませんでした。人々の意志の強さ、生きる希望の強さを呼び起こすことが眠ったままの人の助けになるとなれば、いくら槍の一撃が凄まじかろうと分が悪いですね。バルサさんは現実の世界でこそ輝くんだなぁと認識した事件でした。
あとバルサさん(31か32)と表記がぼかしに入ってきたとはいえ、巻数が進むにつれて着実に進む年月は未だ変わらないようです。まぁ年を取っていくことは別にいいんですが、さんざん匂わせてきたバルサさんと養父のジグロとの逃亡生活が語られるチャンスが全然見えてこないのはどうしましょ。過去のお話ですからいったん振り返らないといけないんですが、お話は元気に未来へと進んで行っています。
お話の雰囲気的には、過去に壮絶な出来事があったけどそろそろ落ち着いて幸せというものについて考えてみようか?(チラッ)とバルサ母さん編が始まりそうな感じもしますが、読者的にはもう一回バルサさんが鬼のような形相で槍をぶん回す姿が見たいかなーという気持ちも正直あります。いやー人の幸せは願わずにはいられませんけど、でもいっぺん不幸のどん底がまたやってきたりしないかなーとゲスな期待もしちゃいますわー。読者ってホント罪ですわー。
後のシリーズに期待しつつ、本日はこれにて終了。