貴族探偵 (2日目)

貴族探偵 (集英社文庫)


古今東西、ミステリー作品の探偵役なんてものは職業 性別 年齢 生物学的種別を問わずあらゆるパターンが出し尽くされていて、この作品のように21世紀の日本に生きる貴族が探偵をやっていたとしても、新しそうに見えていやそうでもないなと即座に思い直す程度には普通の事です。
ならばこの貴族探偵、貴族らしく事件の捜査のような泥臭い作業は付き人に任せて自分は何もやらないのですよ、と言われても、捜査を自分でやらない探偵なんてものもいっぱいいますので特に何とも思いません。
いやいやこの貴族探偵はそれだけじゃなくて、事件の推理まで付き人に任せて解決してしまうという根っからの貴族なのだ、と更なるひねりが加えられてはいますが、もうひねりを加える事ばかり考えすぎて面白いかどうかが分からなくなってきています。当然そういうツッコミも想定して、作中のキャラクターに既に何もしないじゃないかとセルフツッコミをさせていまして、ひねりのスパイラルはどこまでも奥深く続くカオスな状況になっています。いつもながら見事なひねくれっぷりです。タマラン。
貴族探偵は全部で5つのお話が入った連作短編になっていましたので、ゆっくり読んで今日で終わりです。
よくあるミステリーの短編よろしく、事件のトリック重視で割と大した理由もなくあっさり死人が出る話がいっぱい入っています。事件のミステリーには細かいことは言うけど、他の人間ドラマなんて細かい事はいいんだよ!とばかりに安い命を散らす被害者に安い人生を棒に振る加害者たち。オホホホ、醜い醜い。
事件に遭遇した貴族探偵様はその時従えていた執事、メイド、運転手といった手近な存在に捜査と推理をさせるのですが、探偵役として使用人たちは本当に優秀で問題なく事件を解決していきます。貴族探偵様は紅茶を飲みながら、使用人の準備が整った頃を見計らって謎は解けましたという係です。解けましたと言って後は使用人によろしく〜てなもんです。
何だこの貴族探偵様は。自分じゃ調べない、自分じゃ考えない、自分は美女を口説いて大事なところは使用人にまかせっきり、使用人の能力を信頼していて好き勝手動けるようにして、推理を披露する場面でも余計なことを言わずに最後まで使用人にやらせてあげるなんて…、なんて…、あれ、割といい上司じゃないかこれ?
貴族探偵はその地位を利用して警察関係者に圧力をかける、使用人たちは自分の役割を把握して捜査に出かける、役割分担がはっきりしていて上手く組織として機能していますねこれ。今作で出てきたのは老年の執事と、若いメイドと、大柄な運転手ですけど、貴族探偵が抱える探偵は実質3人もいることになります。こりゃ、自分で捜査も推理もする単独の探偵より強力だぞ。
ミステリーのトリックはこの道が長い作者さんらしく、どれも訳が分かりません。いっつも訳が分かりません。でもめちゃくちゃ考えられていて笑いながら読んでます。そういうのは分かります。
続編が単行本で最近刊行されていますが、何もしない貴族探偵が真っ当な探偵と対決する異種格闘技戦みたいな雰囲気を出していて気になりますね。気長に待とうかな、どうしようかな。