【本谷有希子】あの子の考えることは変

あの子の考えることは変 (講談社文庫)



女性による女性の姿を赤裸々に描いた女性のための小説、みたいな雰囲気が男どもは近寄ってくんなとヒソヒソ言ってくるようですが、それはそれでちょっと覗いてみたくなる側面があります。また世の中に対する鬱屈や不満は往々にして誰しもが何かしら抱えるものですが、それら負の感情を集めて小説にしようとすればモテなくてぶうぶう言うような人間が主役に居座ることも自然の摂理と言えましょう。あら奇遇ね。性別は違うけどアタシもモテない人間なのよ。モテない者同士だからと言って分かり合えるとは思わないけど、仲良くしていこうじゃないですの。
Gカップおっぱいが心の拠り所の巡谷さんと、神経質なまでに体臭を気にする日田さんの、世の中やり切れなくて思い通りにならなくて「変」になっちゃいそうな日常をビシバシ容赦なく読者に叩きつけてくる自爆テロのようなこのお話。赤裸々なこの二人の女性の生活は、はしたないを通り越して人間としての尊厳を問いかけるような激しい衝動とGカップおっぱいで出来ています。おっぱいは大事ですよね。男性なら例えば身長とか年収とか。大きければいいってものじゃないと批判されても、やっぱり大きいものには価値が生まれるものです。みんな心のどこかで分かってるものです。人に誇れるものがあんまり無いと、数少ない長所が愛おしくなるものです。だから大きいおっぱいは価値があっていいんです。価値があっていいじゃないですか。
巡谷さんは大きいおっぱいを持っていますが、それすら持たない日田さんは心の拠り所を近所の公害と近所の変人に置き、許す限り生活に妥協して薄暗い女性へと落ち着いています。変なことを考えるあの子とは日田さんの事ですが、アイデンティティーであるおっぱいを否定されると巡谷も半狂乱に陥るので、この二人の変人具合はどっこいどっこい。「あわわわ、世の中みんなキチガイばかりじゃ」と、同じく半狂乱に陥っている男性である私には残念ながら「いや、女だからってみんなこう思ってるわけじゃねーよ!」と同姓の好を使用した強力な異議申し立てが出来なくて説得力に欠けますが、幾分誇張された表現もあるだろうと頭の隅に入れておくことにします。それとも世の中の女性は皆、Gカップおっぱいで憎らしいヤロウをひっぱたきたいと思うものなのでしょうか。世の中狂ってますね。
狂い過ぎて「よし、処女が辛いからホームレスをレイプしてなんとかする!」という発想に辿り着く辺りが哀しすぎるお話ですが、その開き直りと無駄にエネルギーに満ち溢れた鬱屈の仕方が読んでいて楽しいです。よくまぁここまで胸の内をさらけ出してくれましたねと、なんだか信頼されたような気分にも読んでいてなります。ふぅ、小説という媒体を介してじゃないと、恐ろしくてこんな実態覗けっこないぜ。