花が咲く頃いた君と

花が咲く頃いた君と (双葉文庫)


作者の豊島ミホさんが休筆宣言してから数年経ちますが、もう少しだけ文庫本の刊行は続きそう。…ってこの方の紹介はいつもこんな感じになってますね(過去の日記を見ながら)
はいはい、そんなことは置いといて本日はコチラ「花が咲く頃いた君と」よりお送りしますよ。恋愛小説らしいですよ奥さん。作者買いなので読み始めて気付きましたが、そんなことは問題ないのさ。
この本には4つのお話が入っている短編集になっていまして、どれも形は違えど様々な愛(愛情)の形が描かれている少し寂しげな物語となっていました。季節が春夏秋冬と4つそれぞれ割り当てられてたりもします。
恋愛小説といってもこの作者さんが描く主人公たちはストレートに恋に走ったりしないで、なかなか自分の気持ちに気付かなかったり興味ナッシングな振りをしたりでせせこましかったりするんですが、そんな感じなのが1つ目の「サマバケ96」というお話。96って年代の事かな?と思えるような、ちょっと旧い流行真っ只中で生きている女子中学生の、背伸びした夏休みの出来事が綴られていきます。同じくらいの時期に私が同様に都会に繰り出そうものならナンパの代わりにカツアゲを警戒しなければならないのですが、そういえば女子ってカツアゲされたりするんですかねとどーでもいいことを思う。女同士の友情というか、好きなものを好きってはっきり言える間柄というか、そういうのいいですよね。
他のお話「コスモスと逃亡者」は逆にストレートに行ってもうエロいっす。そもそも作者さんのデビューは「女による女のための『R-18』文学賞」からだったなぁ…と思い出すようです。でも主役の女の子を本当の意味で頭の弱い子に設定したりと、どこかあっけらかんとしつつも寂しさを感じさせるお話になっていました。ある意味真っ当過ぎて「椿の葉に雪の積もる音がする」はネタにするような所はないんですが、普通に面白いおじいちゃんとの思い出話です。しんみりです。
そんでまぁ、どうしても一番インパクトがある「僕と桜と五つの春」に話題が偏ってしまうんですが、これはもうしょうがない。ちょっとキツめのカナハギさんと、それに恋したろくに人と喋れない男の子の思い出の記録なんですが、清々しいまでの一途ぶりが気持ちいいです。少しワルめの連中とつるんでるカナハギさんに告白したら、案の定笑いものにされてパシリ生活のスタートですよ。んもう、カナハギさんったら照れ隠しに意地悪なんかしちゃって…このツンデレさん!って自分を慰めないととてもじゃないけどやっていけない過酷な境遇が涙を誘います。それでもこの男の子はブレなくて、カナハギさんに「バカじゃない。死ねば?」と言われても心の中で"好きだ"なんて即答してる筋金入りの片思い。恥ずかしがらず堂々と好きだなんて言えるものがあるだなんて、かっこよくもあり羨ましくもあります。いじめられて暴言吐かれて桜の枝でぼっこぼこにされて…、うん…少なくとも近付かれたくないほど嫌われているわけじゃないな…くらいの微かな接点だけで頑張る事数年。その想いが少しだけ届いた瞬間は、何とも言えないガッツポーズの時でした。恋…じゃぁないかもしれませんが、自分はどんな時も味方の人間だよって本気なのが分かってもらえたのが嬉しいんだと思います。
いやぁ、本気になれる人間っていいよね。