南の子供が夜いくところ

南の子供が夜いくところ (角川ホラー文庫)

一作品ずつ読むたびに面白かったと本を閉じ、もっと好きになっていく。なんとも素敵な事じゃぁないですかね。
前から作者の恒川光太郎さんの語るお話は好きでしたが、今度のお話も以前のように不思議な異世界へと連れて行ってくれるのかしら…でも期待し過ぎたら余計にがっかりしちゃう、だなんてか弱き乙女のような不安を抱えたワタクシですらそっと静かに包み込んで異郷へ案内してくれる、そんな語り口のお話です。優しさか!これが作者さんの優しさか! 静けさがとても心地の良いお話でもあります。
お話は一人の青年の、車を運転中にふと思い出した子供時代の記憶から始まります。日本ではない小さな島で過ごしていた時の記憶です。彼は一応他の登場人物より特別な主人公っぽいのですが、そんなにお話にでしゃばっては来ませんでした。彼は不思議な体験を島でするのですが、あっさりとお話は終わって違う登場人物のお話に移ってしまいます。まだまだ物足りなかった私はそこで終わっちゃうのが始めは信じられませんでしたが、次に始まったお話には先ほどのミステリアスな要素の続きを匂わせ、人は変わりましたが島の話は続いていました。人を変え場所を変えの連作短編集とでもなるのでしょうか。いろんな人生を垣間見る、穏やかでもどこか寂しげな感じもする昔話です。
もうね、ワイワイ興奮して面白さを語るようなお話じゃないんですよね。ユナさん可愛いなぁ!ユナさん可愛いなぁ!100歳越えてて見た目はロリって最高だなぁ! みたいな楽しみ方をする輩がいようものなら崖の上から海に突き落として蟹の餌にしてやるところです。
異世界の雰囲気、日常からあまりにも自然に迷い込ませる世界観、作者さんの創り上げる物語はたまらない魅力を持っています。刊行ペースは一年に一冊くらいとゆっくりですが、来年も再来年も僕はきっと忘れずに、作者さんの紡ぐ物語を楽しみに待っている事でしょう。また会える時がとっても楽しみです。