【乾緑郎】完全なる首長竜の日

【映画化】完全なる首長竜の日 (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)



いろいろくたびれたので今週は何も読む気力がなかったんですけど、なんとなく手に取ったこれを読んだら面白かったので今日は良い日です。首長竜いいよね。わくわくするよね。別にこれ、恐竜が出てくるお話じゃないですけどね。
自殺を図って長年昏睡状態になっている弟と、植物人間になった人間とコミュニケーションが取れる医療器械を使って対話を続けるお姉さんのお話。一応お話のメインは弟の自殺未遂の原因を探すミステリーなんでしょうけど、実際はお姉さんの日常が淡々と描写されていきました。漫画家であるお姉さんは最近、長年連載していた漫画が打ち切られちょっとブルーな気持ちになっています。いきなり長い休みをプレゼントされても…と若干持て余し気味の長期休暇を目の前にして、お姉さんはふと弟と子供の頃過ごした小さな島の事を思い出します。そこに住んでいた叔父さん一家の事や、弟と一緒に魚を捕った事、そういえば親戚筋の爺さんに嫌な奴がいたことなど、様々な思い出に浸りながら、合間合間に思い出したように昏睡状態の弟に会いに行って対話をする、そんな感じのスタンスでした。
別に焦るでもない、どこかゆったりとした雰囲気がするお話の進み方は、のんびりと物語に浸れて良い感じです。
道中、迷い込んだマブイを見抜いた目が見えないおばあちゃんがいましたが、もしかしてこれはマブイ落としのお話なんじゃないかと、ファンタジーな沖縄が好きな私としては少しワクワクしたのもいい思い出です。まあ、ほっとんど本編と関わりはなかったんですけど、マブイを落としたら島のユタにマブイ込めをやってもらえば元の体に戻るらしいですから、それでこのお話が全部解決したかもしれません。アキサミヨー(スゲー)
まあどういう事か読めば分かりますが、繰り返される自殺のイメージや、だんだんと虚しくなってくる他人の優しさとそれなりに充実した生活のおかげで混沌とした眩暈のするような世界へと誘われていくので、スッキリ爽やかと本を閉じることは出来ません。
でもね、そんなお話も面白いよ。