【滝本竜彦】僕のエア

僕のエア (文春文庫)



あ…、NHKにようこその人だ。そんな感じで書店に並んでいるのを見つける。なんだか懐かしいなぁという気持ちもあって買う。
どうもこんばんは。本日はこちら、ひきこもり界のホープとして輝く作者、滝本竜彦さんの「僕のエア」よりお送りします。かつて輝いたどころじゃないです。なんかこの本(というか解説)を読んだらさらに輝きが増している様に見えました。
NHKにようこそ!の文庫本が刊行されたのは2005年だから…7年前? 文庫本で読んだ時は自分は学生でしたが、今では社会の格差に日夜呪詛をまき散らす普通の社会人となりました。ひきこもりの辺りは私も適性はあったんですが、一緒になってひきこもり脱出プロジェクトを遂行してくれる美少女が訪ねて来てくれそうにもなかったんで泣く泣く働くことにしました。俺の所には岬ちゃんはこなかったんや…
まあとにかく自らのひきこもりニート体験を存分に盛り込んだ、もはや自伝じゃねぇのかと思えるほどの読者に親密な作品を残して小説を書くことを止めてしまった(休筆宣言した)作者さん。3年4年と月日が経つにつれて、ふとあの人は今いったい何をやっているのだろうかと思い出したとき、作家として生き残っているかより生命活動的な意味でどのように生き残っているのかの方が気になって仕方なかったものです。もはや生き様が人を魅了するレベル。
この「僕のエア」という作品は刊行こそ近年ですが、書かれた時期は休筆宣言より前なので年月を経た作者さんの新境地的なものは特にありません。フリーターの青年がお先真っ暗の人生に苦悶しながら幻覚の美少女に悩まされるという、お馴染ともいう感じの妄想胸痛ストーリーが広がっていました。苦しむ主人公の姿が鬼気迫るのは作者さんの実体験がまたふんだんに反映されているからなのか…、まるで我が身を削って紡ぎ出すような文章に、こりゃあ書くことが尽きるのも分かる気がするなぁという生々しい力強さが溢れていました。阿呆な人間が阿呆なことをやって思いっきり笑うような爽やかさと、そのまんま絶望に向かって全力ダッシュするような狂喜(狂気)が私の心をがっちりキャッチ。たまりませんな。
そしてこの作品の解説というよりもはや作者の滝本竜彦さんの解説になっている、海猫沢めろんさんによる巻末の解説も私には見逃せません。この人はいったいなんだろう、単なるニートやひきこもりではない、小説に書かれているような懊悩を長年極め続けるとそれらを超越したスピリチュアルなステージへ行ってしまうのかと思わざるを得ない、さらなる高みに到達した人間の様な印象を受けました。親近感ではなくて崇拝対象の様なレベル。なんだかよくわからんが凄そうだ。
作者さんの数年間の道のりが、小説以上にとんでもなさそうだという。もう、面白いなぁ。