リリエンタールの末裔

リリエンタールの末裔 (ハヤカワ文庫JA)



SFだ!SFだ久々に本格的なSFだ!と読んだ一冊。4つのお話が入った短編集です。
表題のリリエンタールとは、19世紀にドイツに実在したオットー・リリエンタールさんという方のことのようです。
お話の舞台は現実より遥か未来、腕が四本あるような人類が跋扈しちゃうくらい年月が経った後の世界でして、空を飛ぶことに魅せられた四本腕の種族の少年が夢を叶えるために超未来の都市へと出稼ぎに行くお話です。まるで異世界のファンタジーの様な舞台と現実の歴史が繋がるという、ありえない"もしも"の世界が存在してしまうのがSFの醍醐味でしょうか。私たちの知る現代とお話の中の未来の間にぽっかり空いた時間が存在し、その失われた時間に一体何が起こったのかあれこれ想像を掻き立てられる素晴らしき世界観が描かれています。この作者さん、お菓子職人シリーズなんてものも書いていますが、SF作品を書くと輝きが桁違いに見えるんですが。
ただ単にSFといってもハードSFとかスペースなんちゃらとかいろいろ派閥がありますが、私は科学技術(サイエンス)という手法を使って未知の世界を見せてくれて、その先で行われる人間ドラマを描いている作品が好きです。やっぱりね、素晴らしい科学技術や、強力な兵器なんかは心躍りますけどね、それを使う人間こそ大事だとね、思うんだよね。人重視。この作者さんは科学技術描写の細かさが半端ないのに、人間ドラマの方も期待させてくれるからたまりません。
この本に収録されている4つの作品はどれも舞台は地球で、遥か未来が一編だけ、近い未来のお話が二編、最後の一編に至ってはなんと18世紀が舞台という、あくまで現実と近い世界観を維持したお話となっています。私たちが知っている世界のようで、どこか違う不思議な世界の数々。それらはファンタジーと違って、いつか現実になるかもしれないという予感をくれる夢のあるお話ばかりです。そんなSFならではの味わいを感じさせてくれるいいお話でした。