しずまれ!俺の左腕

しずまれ! 俺の左腕 (このライトノベルがすごい! 文庫)


ストレス社会のこのご時世、乾いた生活に笑いを与えてくれる存在は貴重です。
話の大筋は、リア充の俺がある日魔王が封印された飛来物と衝突し瀕死の状態になり、目が覚めると左腕は魔王に乗っ取られ邪気眼とクラスメイトに噂される羽目に…みたいな感じですがそんなことはどうでもいいんです。そんなの教えてもらっても読む気が起こるわけない。
大事なのはこの作者が根っからの芸人気質で笑わせに来ることと、ぶっちゃけて言うと個人的にこの方の笑いが好きだという事です。うん、もういいいよね理屈云々は。何処がどう面白かったという話じゃぁないんです、面白いんです。よきかな。
本作はラブコメディと謳ってはいますが、この作者さんにそんなものが書けるのだろうかと前作の伝説兄妹を思い出してふと考える。あれは兄と妹(という名の他人)の愛のお話だった。ラブじゃない、愛だ。家族愛だ。ついでにアホだった。主人公の周りに他の女性はいなかった。つまりラブコメ初・体・験♪なわけだ。どうなることやら。
そんな感じで読んでみましたが、天然なのか計算なのか分かりませんが、己の力量を知り尽くしているが如くの話の持って行き方に妙に感心してしまう私がいました。
例えば主人公は男友達も女友達もいっぱいいて休日の誘いもしょっちゅうくるリア充という設定なのですが、正直ライトノベル作家に本物のリア充描写なんて書けるわけない(偏見)だろうと思いました。ほれほれ、チミは書けるのか?書けるのかのう?と嫌らしい気持ちで読み進めてみると、主人公は魔王に憑りつかれて変人扱いされ、物凄い勢いでぼっちになっていきました。書くのではなく、書ける領域まで設定の方を変えただと…。
そして肝心のラブコメの"ラブ"の部分、お友達としてではなく人を好きになる気持ちをどう描くのかと思いきや、
主人公の記憶が消える → 思い出せないけど僕はあいつが好きだったらしい → そうだ好きだ!そうに違いない!あんなことやこんなこともあったに違いない!
という感じで間に妄想を挟んで一気に恋愛感情を捏造するという荒業を繰り出しお題クリア。ひ、ひどいけど理屈はばっちりだ!
見た目はなんとかラブコメを装えたけど、今回のお話でやはり個人的に感じるのは愛ですよ愛。友人愛に家族愛。恋人同士のラブを書くかどうかは次巻以降に持ち越しですよん。書けるのかのう?
ただいろんな意味で川尻さんは限界だと思います。もう彼女は解放してやって欲しい所です。(でも触手に捕らわれている姿は最高に輝いていたと思いました)