【嶽本野ばら】変身

変身 (小学館文庫)


30年不細工だった俺が、朝起きると超イケメンになっていた!そんなミラクルから始まる売れない少女漫画家のお話です。
うっわ、何その超痛い設定。そりゃイケメンになってモテモテは正直羨ましいですがそんな事本気で想像するなんて人生辛くならないか、とかなんとか思いますが、書いた人がちょっと普通と違う。自分は「下妻物語」しか読んだことがありませんが、作者の嶽本野ばらさんは「美」への造詣が深く、「乙女のカリスマ」なんかも自称しちゃうような、平凡男子の理解の及ばない乙女心を理解される特別な方のようなのです。公式HPに載っている写真も実に美男子。そういや昔、文庫本の作者紹介に載っている写真を見た友人が「え、女?」とか勘違いしていましたなぁ。気持ちは分かる。
つまり私のようなつまらぬ男がする下卑た妄想とは違い、「起きたらイケメン」をこの乙女心を持った作者がどのような話に仕立て上げるのか、想像もつかない予感に期待したというのが、私のこの本を選んだ素直な気持ちなのであります。
さて実際どんな内容なのかと見てみますと、作品の語り口が「下妻物語」そっくりの、独特な喋りかけるような文体でちょっと驚きました。「私」が「俺」に変わってるくらいの違いじゃないかなこれ。へぇー、これって作風だったんだ、と一人納得。
道端で自費出版した漫画を売るという、ストリートミュージシャンの漫画版みたいなワイルドな売り方をする漫画家が、特に理由もなくハンサムボーイへと変身!します。しかしイケメンと化した彼には数多の女性と縁が生まれますが、元から根付く不細工の魂までは変わらないせいで次々と破局。女性たちはどいつもこいつも純情な天使を演じながら飽きると悪魔のような態度ですっぱりと手のひらを返すという、地味にきついリアルで立ち去っていきます。乙女心を知っている割には、だいぶ偏見が入ってる気がするような…。実際の所は日本男児であるおいどんには分からぬ事ですばい、これが真なら素直に受け止める所存であります。(精一杯の漢気)
まったく売れなかった漫画の方も、ルックスとのタイアップで成功への道を走り出す白馬の王子様ストーリー。基本コメディちっくな内容で楽しくお話は進んでいきます。
突然イケメンになってあらゆるものが上手く回り始めると、気になるのがいつ不細工の自分に戻るのかという事でしょう。もちろんそこはお話の大事な部分なので言いませんが、さっきも言ったように基本コメディなので辛く哀しい事にはなりません。安心ね。
ただ終わり方が物足りないなーと思う、あっさりした幕引きなのが少し不満。なんか終始、主人公の独りよがりで終わったじゃねぇか…。イケメンになった喜びや辛さがイマイチ盛り上がりに欠けて、俺も朝起きたらイケメンになりたい!とか、やっぱり今の自分の顔が一番だよねとかは特に思わず、あれこれ妄想が広がる気持ちにはなれない物足りなさでフィニッシュ。