ほたるの群れ3 第三話 阿

ほたるの群れ 第三話 阿(おもねる) (幻冬舎文庫)


ほたるの群れの3巻キマシタワー。前回から約半年ほどですが、作品の刊行ペースが順調で嬉しい限りですね。この作者さん、新しい作品に取り掛かるのは数年単位でめっちゃ遅いけど、いったん筆を取ったら後は速いのかもしれません。ムフ。
普通の中学生だった主人公くんが、偶然に暗殺者同士の抗争に巻き込まれた故に命がけで毎日を生きることになったお話の3冊目でございます。
出版社側の宣伝文句が「壮大で謎だらけのジェットコースターアクション!」(付いてた帯にそう書いてあった)とあるように、前回のハラハラした引きからブレーキを掛けない繋ぎで初っ端からクライマックスで突っ込んでいきます。読む前に表紙の絵を見て「え、誰これ!阿坂?殺し屋の阿坂くんか!?これで中三とか超カッコ良スギ!これはクラスの女生徒が「アタシの息の根も止めてー!」と突っ込んでいくレベル!それ、俺もなんか混ざりたい!」とかなんとかよくわからない興奮でページを捲った5分後くらいには
(; ゚Д゚)  喜多見さんめっちゃビックンビクンしてるぅぅぅー!!?
と叫んでいて、次の5分後くらいにもまた
(; ゚Д゚)  マジかぁぁぁぁっ!!?
と絶叫してるくらいにはジェットコースターしてました。この間実に全体の1/10が過ぎた程度。大波乱の序盤となっていました。
さて、普通の中学生だった小松喜多見さん、彼女を偶然狙う形になった(自称)中学生の殺し屋の阿坂浩助くん、喜多見さんを助けるために巻き込まれたと思いきや実は最初から狙われてたっぽい暗殺者に大人気の高塚永児くん3人の、奇妙な日常生活が静かにまた続いていきました。ただ暗殺者も暗殺の目的もなくなってないせいで、いつ誰かが死んでしまうか分からない張りつめた状況なのも相変わらず。作者さんは一向にこの緊迫状態を緩める気配を見せません。むしろピンと張った糸をびょんびょん弾いて「切れるかな〜?切れちゃいそうだね〜?」と読者を脅してヒィヒィ言わせることを楽しんでるようにも思えます。た、たまらん!
だって今回投入の新キャラ、米原アズミちゃんとか、ちっちゃくてぴょこぴょこ跳ねるような元気で可愛らしい女の子なのに殺し屋とかやってるんですよ。転校早々、おまけに育った生活環境も全然違うってのに頑張ってクラスのみんなと仲良くしようとするんですよ。頑張るんだけどやっぱり一人ぼっちで辛くて、たまに目元を拭いながらも健気にクラスに溶け込もうとまた頑張っちゃうような子なんですよ。何故だ!何故作者はこんな女の子を殺し屋にしたのだ!何故普通の女の子として過ごせるようにしないで、何故っ!?
そんな境遇もそうじゃない境遇も知っていながらアズミちゃんに手を差し伸べた小松喜多見さんはまるで聖母のよう。たとえどんな出自を持とうとも、小松喜多見さんには今目の前で涙を流しているのは普通の女の子だと感じたからかもしれません。
それと昔から訓練を受けてきたという阿坂くんはともかく、永児くんはもう完全に人の道を踏み外してるというか立派なウォーリアー(戦士)になっちゃってますね。何やら秘められた過去があって、身体能力も人より優れていることがだんだんと明らかになってはきています。きていますが、人を助けるためとはいえ、相手が殺し屋で気を抜けないからとはいえ、躊躇なく初手で目玉にガラス片を突き立てるのは成長しすぎだと思います!この子ナチュラルにえげつないぞ…。阿坂くんに匹敵する戦力になりつつありますが…喜ぶべきことなのかは微妙です。
というか主人公パーティー、普通の中学生を謳ってる割にはやけに戦闘力が高くなってる気がします。ヒロインの小松喜多見さんだって、どういうわけか主力の阿坂くんと主役の永児くんと並べても見劣りしないくらいの力強さを感じるのは何故でしょう。潜り抜けた修羅場の数が彼女を強くしたのでしょうが、教室で殺し屋のアズミちゃんに声を掛けられたのだって優しさの他に「どんな子か知らないけど、私の心臓を止めたかったら阿坂の掌底を越える技を持ってくることね…!」と、あの掌底を喰らって死ぬどころか生き返った経験が一歩を踏み出した勇気に繋がってるように思えて仕方ありません。ア、アズミちゃん逃げてー!ラストのアズミちゃん全力で逃げてー!!永児くんの攻撃性と喜多見さんの生命力はもうアズミちゃんの手に負えるレベルじゃないよ!
こんなにもいつ誰かが死ぬとも分からない世界なのに、誰にももう死んで欲しくないと思う息の詰まった世界はまだ続きます(会長については別途審議します)。この人は悪人だから殺っちゃえば全て解決!なんて単純な世界にしてくれない作者さんは、登場人物たちに殺し合いの用意をさせてどんな未来を用意するつもりなのでしょうか。ただ私に言えるのは、童話物語とBFC、どちらも難しい局面を経て素晴らしい結末を用意してくれた作者さんは、今回も信じていいと思っています。
取り敢えず神様 仏様 作者様、阿坂くんをもう少し舞台に上げといてくれませんかね。物語の裏も表も見ていて読者の知っている事と一番同じ事を知ってるのは阿坂くんですし、いつ死ぬ(退場する)かも分からないしでずっと小松喜多見さんと高塚永児くんと一緒にいられるわけではない阿坂くんは、いつか本を閉じて小松喜多見さんと高塚永児くんにお別れしなくちゃならない読者と境遇は似たようなもので、分身みたいな感じがします。出来れば僕はずっと阿坂くんとこの二人を見ていけたらいいなぁと思いますね。