草祭

草祭 (新潮文庫)


何かないかなとなんとなく立ち寄った本屋さんで、恒川光太郎さんの草祭という作品が文庫化しているのを見つける。今日は良い日になりそうね。
どうもこんばんは。本日のお伴はこちら、「草祭」でございます。
この草祭(くさまつり)は5つの作品が収録された短編集でして、登場人物や年代は違うけれど同じ舞台を基にした、ちょっぴり連作風味の作品となっております。同じ人物が他の所にちょっと顔を出したりします。
作品のモチーフは<美奥>という町に伝わるこの世のものならぬ不思議な世界に、ふらりと迷い込んでしまった人たちの心の変化にあります。怖がらせるわけではなく、手に汗握るわけでもない、ただ静かな世界が紡がれていくお話なのです。たまらなく良いです。
恒川光太郎さんの作品の魅力は、現実ではない世界にふらりと旅行に行くような気持ちで連れて行ってくれるところだと思います。素敵じゃないですか、ちょっと気晴らしで現実逃避したいときに本当に現実じゃないところへ連れてかれるんですから。作品の登場人物たちはみんな少し疲れていたり、なにか楽しいことを探したりで<美奥>という町の奥深くへ彷徨いこんでいきます。羨ましいです。
あとは幽霊っぽいものや妖怪っぽいものが出てくるんですが、匙加減が自然現象に割かし近いのも作者さんの魅力ですね。虹やオーロラの延長みたいに現れる架空の町があったり、原っぱで一緒に遊んだ子供たちが風となって跡形もなく消えたり…。そんなことあってもいいんじゃないかと思う不思議な出来事を起こしてくれる、素敵な作者さんです。
いろんな登場人物と一緒に読者も旅をする草祭の世界。本を閉じれば、ホイおかえりなさいです。楽しかったねぇ。