はたらく魔王さま!

はたらく魔王さま! (電撃文庫)


勇者との戦いで傷ついた魔王が逃れた先は、現代の日本だった――。見知らぬ土地で力を取り戻すべく、まずは生活のため日々アルバイトに精を出す魔王さんですってよ奥さん。なんとも聞いただけでワクワクするような設定じゃないですか。
逃亡した先で魔王がしょぼい生活を―― なんていう設定は昔から愛される定番とも言える妄想じゃないでしょうか。私も今までにいくつかそんなお話を見たよーな気がします。ギャップがいいんですよね。とりあえず弱々しくなった魔王に嘆きながらも甲斐甲斐しく世話する臣下は必要だよね。それが男か女かは個人の趣味で選んで頂くとして、今回は男。そして魔王を追っては来たもののみすぼらしいその姿に戸惑いつつ、でも自分も生活のために働かなくてはいけないという女勇者も完備してます。うん、いいぞ。これはいい。というか紹介文の「魔王を追って時空を超えた勇者エミリアもまた、テレホンアポインターとして日本経済と戦っていた――」という一文に思わず笑ってしまいました。な、情けない! でもテレアポというチョイスがなんかいい!
さて設定がなかなか奇抜な分、中のお話は割とまっとうにしなくてはいけないのがこの手のお話のお約束。さっさと魔王が力を取り戻してやたらめったらその辺を壊し始めたり、犯罪者や組織なんてものが出てきてアンダーグラウンドな世界に移行してしまったら、せっかく作った庶民的な設定が台無しになってしまいますものね。六畳一間で魔王が生活する!このシチュエーションを大事にしていただきたいものです。
その点からいえば、このお話は実に小市民的な生活に徹底していて大変よろしかったですね。金がないんなら魔王ならさっさと悪事に手を染めれば手っ取り早いのにとか、魔王になる程の能力ならファストフードのバイトより稼げるところが見つかるんじゃないかとか言いたくなりますが、しょうがないからでぎりぎり納得できるくらいのバランスを保っています。面白いからいいんだよ、細かいことは!
個人的に面白かったのは「マグロナルド幡ヶ谷駅前店A級クルー真奥貞夫」という中二病っぽい紹介シーン。A級かっけぇ!と一瞬思うもよく見ると実は違うという、時間差でくるギャグです。やるわね。
終わりまで読んだ後、続きが出てくれたらうれしいなぁと思うような作品でした。もうちょっとこのしょぼくなった魔王様を見ていたいです。
世界に破滅をもたらそうとした魔王が人助けをしなくてはならないという矛盾。面白いけど下手に突き詰めるとお話があっさり破綻しかねないから気を付けてなー。