魚舟・獣舟

魚舟・獣舟 (光文社文庫)

ふらふらと何の気なしに買ってみたらこれは凄いものにあたった。いいもんめっけ!
吃驚するくらいのSF、惚れ惚れするくらいのSF。細部に渡って技術と理論で彩られた語りは、普段のものより手間暇かけて丹精に作られた業物の気品すら感じ取れるようです。
この本には6つのお話が収録されているので、一つずつ見ていこうと思います。

「魚舟・獣舟」
表題作。海洋SF。海獣だー!
「くさびらの道」
ウィルスじゃなくて菌の感染被害。背筋も凍る幻想さにうっとり…
「饗応」
肩も脚の関節も胴体も外してお風呂でゆっくり。
「真朱の街」
科学が進歩したら、妖怪が堂々と襲って来るようになった!
ブルーグラス
ダイビングもほんと細かく描かれてるなぁ。作者のカバー範囲広っ!
「小鳥の墓」
他の5つを足してもこれの方がページ数が多い!?



なんかしょうもないことしか書けてませんね。一つあたり30ページ程度という密度の濃さなんで正面から書くなんてとてもとても…
短いからこそ輝く幻想世界は、業物に触れる事ができた感動みたいなものすらあるよ。それにしてもディープな知識をお持ちですね。
印象深かったのは真朱の街。人工臓器で肉体を補いまくった人間はもう妖怪と変わらないくらいの異形さだから、姿を隠さず正面から襲うことになった妖怪が出てきた、というなんとも夢のある話でした。まだ不完全ながら、妖怪も逃さぬ科学の力!ハードボイルドな雰囲気も相俟って憎らしいくらいの物語に仕上がってます。
でもやっぱり小鳥の墓ですよ。さり気無く猟奇的な始まりをする話はいったん過去へ、次第に始めの猟奇具合に過去から近づいていく物語性と他の短編と同様の幻想加減が心を掴んで離さないー。主人公の存在感が際立ってます。
実は他の長編とリンクしてるとの説明が解説に。あんたいい仕事してるよ!ちょっと買ってくる!


この雰囲気作り上げた作者に惚れそうです。