お縫い子テルミー

お縫い子テルミー (集英社文庫)
表題作は芥川賞候補にもなったといいます。
へーそうなんだー、買うまでそんなの気にしてなかったけど、ではどんなものか一つ読んでみましょうかー。


…と、いつもならこの後あれこれ感想を書きながら、これはよかったねーとかおもしろかったねーとか言って締めるんですが、今回はそんな遠回りしませんよ。


すんごいよかった。


震える気持を最初に吐き出しまして、ホイこっからは通常運転です。


「お縫い子テルミー」
この本には短編が2本入ってまして、こっちが芥川賞候補になったやつです。
依頼主の家に住み込み、服を仕立てる「流しのお縫い子」として生きる娘、その名も照美。
彼女の母もそのまた母も、居候先で仕立てをしながら他人の家を渡り歩く生活をしているという由緒正しきファンキーな一族です。
照美はそんな家無し生活をして小学校にも行かず、裁縫で生計を立てる日々を送っている治外法権な生活をしていながら、その語り口はなんて軽妙なんでしょうか。
スッキリとした喋りながら、ユーモアもある。洒落も言えて頭の回転も速いし、本当に面白い子ですね。そんな彼女が仕立て屋のプロとして自立しようと頑張り、叶わぬ恋に困り、やがて成長していく…、うわー文字にするとなんともへちょいものしか書けないー。
驚くほど力強く前向きな彼女が、もっともっと大きく育っていく物語。全然悲しい話じゃ無いのに最後には目頭にジーンと来るものがありましたよ。
こんなに心震えるほどのものに出会えて、あぁよかったなとしみじみ思いました。


「ABARE・DAICO」
もう一つのお話の主人公は小学五年生の男の子です。

夏休みの時期を舞台に、離れて暮らす両親、かっこいい友達、秘密の計画、その他色々織り交ざった少年期の出来事が綴られていきます。
やはりこちらも人物達の喋りが軽快でいながら、どこかとぼけていて面白いんですよ。得体の知れないアルバイトの審査に、始めにクイズを出すセンスが素敵でした。
子供の視点で描かれる日常、いろんなことでいっぱいいっぱいの毎日、楽しい楽しい。
大人はいつも、なんにもわかっちゃいない。子供に何かあると、家庭環境や非行に結びつけたがる。そんな大人にはならないぞと思う少年期の一コマ。
昔そういう気持を抱いていた私も、今では大人と子供の間くらいの微妙な歳までようやく来ました。今でも子供の気持ちが分からない大人になりたくないとは思っていますが、小学生の小松君と対等な目線で話す酒井さんは変な人だしなぁー、と大きくなったらなったで悩みどころがありました。うっはー、いろんなこと知っちゃったから見え方変わってるー。

はっきりとは分からないけど、確実に一回り大きくなった小松君のお話、こちらもよかったです。



〜〜〜
本の厚さもそれほどではなく、さらっと読めた感じでしたね。
えがったえがった。