【大島真寿美】やがて目覚めない朝が来る

([お]4-2)やがて目覚めない朝が来る (ポプラ文庫 お 4-2)


インターネット上での誰宛でもないつぶやきっていうのは、もしかしてで誰か見てほしいかなとちょびっと思ったとしても、次の日やっぱりいつものブログ画面が静かに出迎えてくれるなんていうことが日常のささやかなものです。
逆に開き直ってこんなつぶやき誰も見てやしないとポツリと言葉にしてみれば、たまたまふらりと傍を通りがかったどこの誰とも分からない私みたいな暇な人間の耳に届いちゃったりすることもあるのです。私も言葉の主人がどんな人なのか見えていませんが、Web越し聞こえてきた芳原わらびさんのすきな本の名前。
ヽ(*´∀`)ノ 聞いちゃった聞いちゃった。こんな面白そうな本があるって喋ってるの聞いちゃった
もうね、知っちゃったものは仕方ないよねということで、本日は「やがて目覚めない朝が来る」を読みました。
このお話では主人公の女の子は両親の離婚をきっかけに引っ越すことになりまして、お祖母さんの蕗(ふき)さんのお家にお世話になるところから始まります。小学生だった女の子にとって蕗さんは自分のうちの"お祖母さん"でしたが、昔は舞台女優としてかなり活躍していたらしくて家にはいろんな人が今でも訪ねてきます。へぇ、前から立ち振る舞いがなんか格好良いなと思っていたけれど、今でもファンがいるくらい当時は有名だったそうな。そんなお祖母さんと一緒に出てきたお母さんと主人公の女の子との3人で過ごした、賑やかだけどどこか心落ち着く思い出のお話です。
子供の頃に両親が離婚、しかもお世話になるお祖母さんは一緒に出てきたお母さんの親族ではなくて、何故か父方の祖母(お祖母さんとお母さんはぶっちゃけ他人)という、これはちょっとした我儘も憚られるんじゃなかろうかという環境に放り込まれてしまった主人公の女の子。一歩違えば元嫁と姑の家庭内不和で多感なお年頃をハードモードで過ごしてもおかしくありませんでしたが、お母さんはどこかあっけらかんとした人で、お祖母さんも芸能という特殊な分野に長年いるような人だからなのか、人生の変化を微笑んで受け入れるような穏やかな新生活が始まるのです。離婚したしお父さんがいなくなっちゃったっていうのに、陰鬱な空気はまったくありません。お祖母さんの家には代わる代わる昔馴染みの人たちが顔を出しに来てくれて、お母さんにも女の子にも気軽に話しかけてきてくれます。というかお母さんも昔から知っている人が結構いるらしい。ですのでみんなで笑うところは一緒に笑い合えますし、やむなく離婚してしまった哀しみもみんな理解を示してくれます。まだ小さい主人公の女の子は穏やかに過ごす大人たちの談笑を、静かに心地よく聞きながら子守歌代わりにうとうとするのです。この空間のなんと居心地の良いことでしょうか。
人生を生きていれば辛いことも悲しいこともあります。このお話のどの登場人物たちもそんな出来事に出会っても悲観し過ぎることがなく、泣くだけ泣いたらさて明日はどうしようかねとばかりに、方向を見失わずに人生を楽しんでいるように感じます。(ただしお父さんを除く)
というかお祖母さんも、お祖母さんの昔馴染みの人たちもみんなカッコ良すぎます。
主人公の女の子視点だった私から見ると、もちろんお祖母さんは凛とした往年の舞台女優でして、お祖母さんの所属事務所で仕事をしていた富樫さんは長年の戦友でしょうか。衣装デザイナーのミラさんは煌びやかな服装でいつも身を包み、その佇まいは実に堂々としています。お母さんもお母さんでのんきなんだか肝っ玉が太いんだか、子連れの住み込みの割に自由に生きて毎日楽しそうです。どなたもしっかりとした意思を持ったステキな人ばかりです。お祖母さんの昔からのファンだった田幡さんが、晩年になってもお祖母さんに会う度に嬉しいなぁとか会いたかったんだよなぁと素直に喜んで見せる姿は、見ているこちらは呆れるんだか笑っちゃうんだか、実に幸せそうで笑顔になってしまいます。そんで幸せで心地よく穏やかなはずなのに、今が笑顔になればなるほどなんでか哀しくて涙が出そうになるんだよなぁ。なんでかなぁ。
このお話の雰囲気はゆったりとしていても、作中の登場人物たちが長年過ごす間で起こる出来事は、結構容赦が無いものがしれっと混ざっていたりします。物語の始まりは両親の離婚からですし。お祖母さんも子供の認知とかで揉めたらしいですし。読み進めていれば否が応でもそのうち気付きますが、タイトルだってあんなのだし。でもどんな困難に晒されたって、いつだって前に進むことを忘れないカッコ良い大人たちばかりだからこのお話が心地よく感じられるのです。
いいなぁこんな大人になりたいなぁと、とりあえず自分がもう大人なことは忘れたことにして、まるで子供の様に憧れてこのお話を楽しみました。