スタープレーヤー

スタープレイヤー (単行本)


出て日数も経ってないので単行本しかないけれど、Kindle版がまるで文庫本のような値段になっていたので買っちゃった。¥750はありですね。
ちょいと一味違った幻想世界が魅力の恒川光太郎さんが描く今回のお話は、作者さんの作品には珍しい西洋ファンタジー風味です。読んだ本はこちら「スタープレーヤー」。お願い事を10個叶えてもらえる特典を持って、別の惑星へ強制ワープから始まるお話です。えらいこっちゃ。
主人公の中年女性が道端で怪しげなキャッチセールスに出来心で引っかかってみたら、あら大変。スタープレーヤーとやらに選ばれて、10個の願いを叶えてもらえる権利を手に入れましたとさ。なんとも怪しさ満点の導入部分です。
何はともあれ、このお願いが今回のお話の胆ですね。突然「なんでも好きなお願いを10個叶えてあげる!」と言われても、何をすればいいか正直困ってしまいます。「ふッ、願いは叶えてもらうものじゃなくて、自分で掴み取るものさ!」とか「ボクは今の生活が気に入っていてね。願いがいらないのがボクの願いさ!」なんてのたまく事は簡単ですが、ちょっと冷静に状況を見るとそうでもないことが分かります。まずは開始時点で見ず知らずの土地にぽつんと一人ぼっちになっているという事。手元にはお願いを送信する端末と、アシスタントのプログラムが傍に一人。今までの友人も家も財産も取り上げられているも同然ですから、元の生活レベルに戻してほしかったらお願いが一つ必要です。ちょっと条件が付いていますが、お願いすれば元いた場所にも戻れるそうでこれでお願いがまた一つ。あれあれ?と思う間にお願いすることが出てくることが分かります。おうおう、嫌な予感がしてくるぜ!
お願いは周りの状況によって大きく左右されることが分かりましたので、主人公の女性が衣食住を整えている間に私もちょっぴりワクワクしながら周囲の状況を観察します。アシスタントのおっちゃんの説明によるとここは地球以外の惑星で、固有の動物も原住民もいるとのこと。文明のレベルはギリギリ鉄砲があるくらいの、中世ファンタジーっぽい世界ですってよ奥さん!ここになんでも叶えられる魔法のような力を持って冒険しに行くって寸法よ。剣と魔法のファンタジーに様変わりです。ますます嫌な予感がしてくる!
ちなみにお願いは回数制限以外に目立ったペナルティは無く、願える範囲も結構自由が利きます。曖昧過ぎなければ融通が利いて、家が欲しいと願えば住宅アドバイザーの如くアシスタントのおっちゃんが親切丁寧にプランの相談に乗ってくれます。キッチンがあるけどガスがない!とか未開の地だから水道が来てない!とかそんなトラブルもなく、お願い事一つであれもこれもセットでお届け。お願いお試しサービスで、消費なしでお蕎麦も一人前付けてくれるというサービスっぷりに私の不安感は募るばかりです。(←おいしい話にひたすらビビる小市民)
ルール説明はこの程度にしましてお話の方ですが、主人公さんがやがて別のスタープレーヤーと近くの村民達に出会うことによって方向性が定まってきます。ほらほら神様のような力を持った同じ境遇の人間がいるなんて、話がまた違ってきますぞ〜。そんで地元民から見れば、ただの中年女性だった主人公さんも超絶パワーの神様でしかない。さらに厄介なのが、他のスタープレーヤーが欲望のままに呼んでしまった様々な人種の地球人がそれなりにいるという事。スタープレーヤーの歴史が積み重なれば、呼び出された理由もなくなり定住を余儀なくされた人もいるわけです。この方たちはスタープレーヤーに選ばれたわけじゃないので、もちろん10個のお願いは無し!ふざけんなよと本当に嘆きたい人はこちらの方たちですね。スタープレーヤーまじスタープレーヤー。
超差別的な待遇の人間たちが集まることによって次第にお話に波乱が生じ始めます。さぁさぁ物語が面白くなってきました。ちなみに主人公さんは超優遇側です。羨望や嫉妬がおっそろしい!うひょひょひょ、でも何を叶えようかしらん?
一番驚いたのは、読み終わった後にこれが大作シリーズものとして計画されていると知った事です。た、確かに国とか戦争が出てきてデルフィニア戦記十二国記のような架空戦記の雰囲気も出すには出せそうですが、そういうお話になるの?と半信半疑なのが正直な感想。お願いの力が強力すぎて、例えば「この世界にアメリカ軍を!」と願えばたぶん叶う世の中で、不自由な中世ファンタジーを維持するのはなかなか難しそうですよダンナ。
いつも一味違った幻想世界を魅力的に描いてくれる恒川光太郎さんが、今のところ俗っぽいこの世界観をどう盛り立ててくれるのか。続巻の行方が気になっちゃう。