【小川みなみ】やわらかな記号

やわらかな記号


好きな本ぼしゅう 3月のコメントより、Nさんのいっぱい紹介その4。
私が以前読んだ栗田有起さんの「マルコの夢」繋がりで、ナナメ方向で似ている?と紹介者さんも若干混乱しながら教えてもらった本です。ですが今は絶版になっていて、店頭での入手は難しくなっています。残念。

よいしょっと。何も問題はないね
本も手元にある事ですし、本日はコチラ「やわらかな記号」を読んでいきます。初版は1995年発行。作者の小川みなみさんは、現在はどうか分かりませんが、当時高校の生物の先生だったそうです。なるほど主人公が高校生なのはその辺に理由があるなと勝手に納得。読んでみると児童文学の雰囲気の中でこの子ら中学生くらいにしか見えなかったんで、何かあるんだろうかとちょっとだけ思ってました。身近な人がモデルね。
さてそんな感じで、中学生と思いきや高校二年生の少年っぽい青年が今回のお話の主人公。彼は夏休みまであと数日という所でテストの追試を言い渡され気分はブルー、とぼとぼと生物部の部室へと向かっています。部室に着くと、中ではいつものメンバーが思い思いのサボりっぷりで実験室を満喫していました。部室の気怠い雰囲気も、外のきつい日差しも相変わらず。でも主人公くんはテストで赤点を取ったことを一旦置いといて、最近までこっそり調べていた秘密をこの日他の部員へ打ち明ける計画をしていました。主人公くんと部長で偶然発見したこの驚くべき事実は世界に衝撃をもたらし、世の中の様相を一気に変えてしまう可能性すらあります。彼らはいったい何を発見したのか?今明かされる衝撃の真実!
複数のナメクジをZ字形に並べると、ナメクジはワープする!
(;゚Д゚)  な、なんだってー!!?
恐るべきナメクジの隠された力!あのカタツムリに殻がないだけなのに嫌悪感は数倍のナメクジ野郎!カタツムリは平気だけどナメクジは何で触るのも嫌なんだろうと疑問に思った若き日の私が、あえて素手で摘まんでみて「あ、やっぱり無理だ」と結論付けたナメクジ野郎にそんな力が!外国産のデカくて丸っこいゴキブリは分かるが、クロゴキブリはいかん。ハムスターとドブネズミは似て非なるもの。同じ種類って言っても、区別って大事だと思うのよ。うん。
衝撃のナメクジパワーが明らかになったところで、早速検証実験に取り掛かる部員たち。正直他の部員は信じてはいませんでしたが、暇だったので取り敢えず見てみようかという流れになります。そしてそれが…これから始まる苦難の入り口とも知らずに…。
ナメクジワープ理論は非常に不完全な理論でして、詳しい発動条件や効果が不明なところも多く、事実上制御不能という致命的な問題点がありました。一回目のワープ実験でナメクジどころか自分たちも目標地点に瞬間移動してしまうハプニングに見舞われるのですが、ここで物や小動物で慎重に実験を進める方向に行かず、もう一度同じ方法で部室に帰ろうとする主人公他部員たち。自らの体を使って最短距離で人体実験のデータを集めるなんて、科学者としてなんて素晴らしい精神の持ち主なんでしょうか。マッドなサイエンティストですけど。
そして2回目のワープで主人公くんたちは日本を飛び出し、ワープ遭難者として数々の困難に見舞われるのでした…という感じのお話です。とんでもねぇ導入の15少年漂流記です。あれはみんなで船に乗って嵐に見舞われないといけないのですが、これなら高校の部室から気軽に遭難できます。しかも行先は無人島以外も自由自在!1888年ジュール・ヴェルヌが初めてその小説を発表した時から107年後の1995年、文明の進歩は遭難すらもお手軽に出来るようになりました。人類は確実に未来に向かって生きています。
結構危ない目にも遭いますが、なんとか無事全員笑って帰ってこられるお話なので読後感はとても爽やかです。このお話で私が名シーンを選ぶとしたら、やっぱり巨大な粘菌に襲われたときフジナミ君が咄嗟の機転を利かせてピンチを脱出したところでしょう。前代未聞の巨大粘菌に囲まれ次々と部員たちが呑み込まれていく中、フジナミ君がみんなの荷物を漁ってサイクリック・アデノシン・モノフォスフェイト・サイクリックAMPを見つ出し粘菌を見事撃退します。持ってて良かったサイクリックAMP!(粘菌の集合を促す、別名:環状アデノシン一リン酸ともいう化合物…らしい)
実際には持ってたから駄目だったみたいでしたけど、まあ細かいことは気にスンナ。
やわらかな記号とは、ナメクジが形作るZの文字の事!(たぶん)
みんな!興味本位でナメクジを集めてZの形に並べちゃだめだぞ!作者さんもあとがきで「(二十八ページの五行目から十行目参照)」みたいな感じで警告してるからな!読めないおともだちのために、一言抜粋。
〜 無事にもどれているのは、それは物語だからこそよ。 〜
ちなみにナメクジ以外でもワープは起こるそうよ…(ボソッ)