謎解きはディナーのあとで

謎解きはディナーのあとで


謎解きはディナーのあとで」は2011年に本屋大賞を取ったりとかドラマ化とかして大ヒットした作品だ。
僕もいつか読みたいなと思いながらのんびりしてたら、世間ではもう3巻まで刊行されているらしい。「ふ、だいぶ乗り遅れちまったな」と取り敢えず呟く。何にせよ流行のものを何時までも追っかけてられる元気は持っていたいと思っている。
作者の東川篤哉さんはよくユーモアに溢れたミステリ作品を書いている。若干好意的な表現で書いたが、ユーモアというより正直なところはしょーもないギャグ満載だと個人的には思っている。でも僕はそのしょーもないギャグが好きだ。大笑いじゃなくて苦笑いに近いものが沢山あるが、ミステリのトリック自体はなかなか手間のかけた本格派志向だし、あれこれ楽しませてくれる仕掛けも用意してくれている。
僕は前からこの作品が大人気になった理由が不思議だった。「単に笑えるとか読み易いとかだったら他の作品と何が違うのだろう」と読む前からミステリアスを勝手に感じる。本当にたまたまヒットしただけなのかしら。この謎は忘れないよう一生懸命覚えておかねばと心に誓わねば忘れてしまうほど重大な問題だ。覚えてられたら挑戦してみよう。
お話の主人公は巨大企業グループの総帥の一人娘だけど何故か刑事をやってるお嬢様。そしてお嬢様の面倒見役と推理を担当する執事とのコンビでお話の方は進められていく。所々にボケたりツッコミを入れたり面白おかしくしながら、様々なシチュエーションの殺人事件に挑んでいくのだ。読んでいて思った。確かにノリは他の作品と一緒だ。だけど違う、他の作品とは違う、繰り出してくるネタの数が半端じゃない!
主役のお嬢様は大金持ちで美貌の持ち主、一流大学を卒業しブランド物のスーツを職場で目立たない程度に着こなしながら、お嬢様育ちであることを隠して仕事をしている。でも実際の言動は抜けている所もあって、事件を前に執事に泣きつくこともしばしば。プライドが高くアホを指摘されると怒るが実際の所はアホだという事を本人は認めていない。一つ一つはどこかで見たことのあるキャラクター設定だ。
執事も執事で丁寧な物腰と整った顔立ちを持ちながら時たま主人のお嬢様に対して暴言を吐きからかう腹黒さを持ち合わせていたり、上司の刑事は金持ちの息子ながら主人公のお嬢様に遠く及ばないことを知らずにボンボンぶりを発揮しちょっかいをかけてくるなど、これでもかというほど詰め込みまくった属性のキャラクター造形で攻めてくる。やり過ぎなくらいやりまくっている。この完成度は他の作品と比べても独特だ。
事件の方も基本は殺人事件を調査することになり題材は重めだ。犯人もアリバイ工作をしたりと複雑に見せかけ、事件を惑わせる。そこを状況を聞いただけの執事が見事な推理を披露するのだ。「素晴らしい妄想力だ、でっち上げもここまで来ると清々しいや」 僕は現実主義なのだ、それに伴った証拠や自供が出てこないと納得はしない。僕は事件の続きを見ることにした。続きは無かった。事件は終わっていた。「え、確かめるパート無いの?」
よく分からないまま次の事件を眺めていたら、以前執事が披露した推理は合ってたらしい記述が見つけられた。「あれでよかったんだ…」と思った。いいのかそれで。適当具合が素晴らしい。
属性過多なキャラクターにシチュエーションにと、容赦ない詰め込み具合が楽しい作品。ギャグはやっぱりしょーもないし、面白かった。