ほたるの群れ4 第四話 瞬

ほたるの群れ 第四話 瞬(まじろぐ) (幻冬舎文庫)



ほたるの群れも4冊目を迎え、これで一区切りを迎える様子です。『一学期』と期間を銘打って、この巻でひとまず学校生活が『完結!』するそうな。いや、今までの出来事を学校のカリキュラムみたいに言うのおかしいだろ!
どうもこんばんは。ほたるの群れの4巻でございます。
今回はこの中学3年の一学期の間で習った拉致(される)と傷害(受ける)と毒殺(耐える)と暗殺(されかかる)を踏まえた総復習編として、青少年の殺し屋がわんさかと襲いかかってくる夏休み前の小テスト的なお話となっております。最後まで生き残れば合格です。今まで勉強したことを思い出して精一杯頑張りましょうという感じでしょうか。最近の受験戦争はこんなに厳しいのですか?
今回の宣伝用の煽り文句には”生き残るのは、いったい誰だ?”なんておちゃめな事が書かれており、ページ数も豪勢に前巻の倍近くというボリュームがあります。そのくせお話は傷口から垂れた血も乾く間もなく最終章まで駆け抜けるという恐ろしいまでの過密スケジュールで進行するため、道中は脱落者続出の壮絶な様相を呈することになります。息を吐かせぬ危機の連続と何故か出てくる笑いが混じったカオスでエキサイティングなエンターテイメント作品として面白く出来ておりました。
さてお話の方は前回のはらはらした幕引きからそのままで、暗殺者の米原アズミちゃんが主人公で普通の中学生の永児くんに向けて刃を構えたところから続いていきました。今回のお話で重要なところは、激しさを増す戦闘の中で誰が敵なのか誰が味方なのかをその場その場で的確に判断していく必要があるところです。敵の敵は敵なのか味方なのか、さっきまで命を狙ってきていた相手と何故か協力する形になったりと、もはや生き残る事すら危うい状況では敵と味方がめまぐるしく入れ替わるため、一見だけでは優劣を見誤りそうな状況にどう動くべきかが常に問われるのです。たとえば殺しに来た米原アズミちゃん、本人は余裕ぶっこいてますが実は返り討ちで逆に殺されかかってるという事が分からない若干鈍い女の子なのですが、こういう判断の誤りが死に繋がるため気を抜くことが出来ないのです。逃げろー!アズミちゃん逃げるんだー!
ちなみにアズミちゃんはそれまでの疲労が祟って、直後にぶっ倒れます。本人はなんか悔しそうな目で見ていましたが、読者の誰もが永児くんと喜多見さんの無事ではなく、アズミちゃんの無事に安堵したことでしょう。
まあアズミちゃんとのやり取りはお遊戯みたいなものでして、洒落にならない本番がこれから永児くんと喜多見さんに待ち受けているから恐ろしいものです。起こることはそんなに複雑じゃなくて、もうひたすら暗殺者が攻めてくる攻めてくる。そんで各自お気に入りの武器を振り回す振り回す。当然あちこち怪我もする怪我もする。死ぬ。おかしいよね、一応舞台は普通の中学校で、そこに通うのは普通の学生なんだよね。どうしてこんなひどいこと出来るんだろうね。お話の責任者である作者のドSぶりが遺憾なく発揮された展開にめちゃくちゃすぎて何度か笑いました。
例えば高塚永児くんはそんな生死の狭間でもがくことになったわけですが、もう流石に今回で残念ながら普通の中学生を名乗ることが出来なくなったかもしれません。今まで身を守るためがむしゃらに戦って来たように見えましたが、積極的に戦いに赴くようになって彼の異常さがはっきりと見えてきましたね。教室で武器になるものを探している場面がありましたが、入手できたものがカッターであれハサミであれ鉛筆であれ容赦なく相手に突き立てるだろうと簡単に想像できまして恐ろしくなりました。戦い方がエグ過ぎてお前が主人公でいいんだろうかとすら思います。武器を入手しなきゃいけない場面なのに そんな危ないもの持っちゃダメでしょ! と叱りたくなる自分がいて思わず笑いました。
小松喜多見さんも喜多見さんで、最初から戦闘に巻き込まれていながら最後まで走り続けるタフネスさを発揮し、この娘もこの娘でだいぶ逞しく成長していました。そうでなければ生き残れなかったのかもしれませんが、代わりにヒロインとして大事なものもなくしているかもしれません。少なくともか弱い乙女じゃない。
どこに何度も致死量の猛毒を食らってビックンビクンのたうちまわるヒロインがいるかよ!そのあと普通に立ち上がるなよ!作者も作者で喜多見さんの持ちネタみたいな使い方するなよ!笑う場面じゃないんですけどもう笑うしかありませんでした。
小松喜多見さんが弓矢を中てそこなった際に「お母さんにもっとちゃんと教えてもらえばよかった」と後悔する場面がありますが、中てる的が人間だと知ってたらお母さんはきっと教えてくれないんじゃなかろうかと私は思いました。気持ちは分かりますが、喜多見さんもだいぶおかしくなってます。
激化する戦いの果てにあるのは終わりではなく、新たな戦いの予感。ひたすら戦闘が続くお話しながら、途中で各キャラクターの心情や人との交流、舞台の裏を匂わせる演出などバランスよく組み込まれていて、ただ単にバトル描写が続くような退屈さがなくて嬉しい限り。どこら辺から情報を仕入れて創り上げたんだろうとちょっと気になる、ライトノベルらしさを持った強キャラの少年が敵として出てきたりと派手さも増してきたように思えます。
そういや今回の表紙は会長こと千原行人くんですね。喜多見さんにビックンビクンとヒロインにあるまじき醜態を晒させた彼は私の中で完全に有罪判決でしたが、なんか作中では喜多見さんは許してるみたいなので許すことにします。今回ちょっと人が死に過ぎました。なんとか生き残ったのなら精一杯これからも生きて行って欲しいものです。
散々ドジっ娘を見せつけたアズミちゃんとは全く違うという姉。明確にスイッチをONするとかOFFするとか意識するようになった永児くん。耐久力にますます磨きがかかる喜多見さん。退けるたびにもっと凄いのが出てくる暗殺者たち。分からないまま少しずつ輪郭だけが露わになってきた物語の謎。終わりは見えませんが、まだまだ楽しくなりそうですね。