妄想ジョナさん。

妄想ジョナさん。 (メディアワークス文庫)

おいおいブラザー!今度の理想の彼女は妄想から出てくるんだってよ!
まあ不潔!いつもの事ながらライトノベルっておめでたい頭をしてるわよね!

…とまあ普通のライトノベルならその理想の彼女を何の躊躇いもなく現世に召喚してキャッキャウフフする所ですが、少し大人ぶりたいレーベルのメディアワークス文庫から出版されたこちらは、自重して妄想は最後まで妄想のままで行くというチャレンジ精神のある作品でありました。ええそうなのです、女の子をノートから具現化したりゲームから呼び出したり異世界からデリバリーしてもらったりして無理矢理実体を持たせる方がよっぽどクレイジーだとは思うのですが、ヒロインと(肉体的に)結ばれない事の方がライトノベルではリスクが高いのですよ奥さん!例え殺しに来た相手でも可愛ければ反応してしまう、それが男の哀しいサガなのですよ奥さん…。と言うわけで良識のある判断を下したけど、でもやっぱりちょっと微妙だったのがこの妄想ジョナさんなのですよ奥さん。
細かいお話の内容はぶっ飛ばしまして、やはり面白かった所を挙げるならば主人公くんの妄想レベルが日常生活に支障を来すレベルで深刻だった所でしょう。妄想妄想、ファンタジーなものもいっぱい出てくる、可愛い女の子だって出てくる、何それ御褒美じゃないかコノヤロー!とはならずにそれらをしっかりと辛いものとして描写してくれたところは好感度が高かったです。電柱を囲んでいるガラの悪い連中を勇気を出して追い払ったとき、ボッコボコにされながらもか弱い電柱を助け出せたとき、それを切っ掛けに電柱と毎日いろんなお話をする仲になれたとき、台風の中立ち竦む電柱を守るために必死に傘をさし続けたとき…。この男の哀しさが本気で私の胸を打った瞬間でした。暴風雨の中、自分の守っていた相手が電柱だったと気付いた男が発した嘆きが、私にははっきりと聞こえた気がします。いやーキツいわこれー。
もはや何が現実なのか分からなくなるほど浸食しまくる妄想は、なんて事のない普通の街並みをめくるめく幻想的な土地へと変化させ、文章のくせに色鮮やかさを感じさせてくれるようで楽しませてもらいました。
では肝心の妄想の産物、美少女のジョナさんはというと、100%妄想だと男らしく決めたは良いもののどう考えても持て余している結末にしかなっていませんでした。お話の持って行き方がライトノベルで普通に女の子を召喚した時とあんまり変わりません。キャッキャウフフします。いや、それじゃ最後ただ寂しくなるだけだろうに…。チャレンジはよかったのですが哀しい所です。
もう、ギャグに逃げる事なく最後までシリアスに締めちゃって…だからその心意気は良いんだけど、おかげでこっちの気分も落ち着いちゃって笑ってごまかせなくなったじゃない。