人見知り部は健全です

人見知り部は健全です (電撃文庫 さ 12-3)


この「人見知り部は健全です」は、世の中に氾濫する様々な萌え属性に新たな角度を与える一冊であり、神が人類に新しい平和をもたらした福音書なのであります。
今この時代を生きる者として「萌え」という概念の存在を無視することは不可能であり、「なにそれキモーイ」と否定することは現実を何時までたっても受け入れられない旧時代の人間であることを主張していることに他なりません。即ち自らの凝り固まった価値観を見直す事をせずに頑なに萌えを否定し続けることは時代を否定する事と同じであり、過去の歴史から学ぶ事をしなかった故に同じ過ちを繰り返すという悲劇に繋がります。我々はありとあらゆる価値観を即刻切り捨てるのではなく吟味した上での判断をすべきであり、吟味した上で「やっぱりキモーイ」と切り捨てるべきなのであります。一般常識ではロリコンは社会の敵であり、ケモックスは異常性癖であり、可愛ければ女なんてなんでもOKなライトノベルの主人公はこの世から滅びるべきだと思います。
萌えが認知された後ドジっ娘ツンデレなどの属性発掘が盛んになり鉱脈を発見したゴールドラッシュの勢いで世の中は萌え資源で溢れるようになりました。人々は今や神が用意した属性だけでは満足することが出来ず、自らの手で属性を生み出すという神の領域にまで侵犯しようとしつつあります。このアホな文章を考えているときにふと思いついた素直ビッチという属性がgoogle神によって既に捕捉されていることを知った時、ふと冷静になって考えると誰得だよこの属性と思った時、逆に神の領域を侵すことが如何に人類には早すぎる行為なのかを諭されたような気がします。
我々は新たに属性を発見する事に盲目にならず、既に神が与えられた属性を再考し真の意味の理解に向けて歩むべきなのであります。そして本書は歩むべき一歩を踏み出した作品であり、続く二歩目三歩目を他の作品へと託す礎となる作品なのであります。この「人見知り部は健全です」が提示した一歩とは即ち、萌え属性は遺伝するという事に他なりません。
我々は目の前に属性持ちの女の子が現れたとき「病弱娘萌え〜」や「頭の弱い娘萌え〜」で思考を停止してしまいその先を考えない事が多々あります。ここで私が言うその先とは薄い本で描写されるようなちょっと先の抑えきれないリビドーの展開ではなく、種の保存としての本能、新たな命へ託すべき生きる力の事です。
そう、20歳になったら「お兄ちゃん大好きだよ」と言い残して死ぬ娘や「ケータイとか詳しくなくてぇ〜! ずっとコレ使ってるんですけどぉ〜! 使いにくいんですぅ〜! ぷんぷくり〜ん(怒)」なんてことを言う娘を望む親はいないはずです。
この作品の主人公の母親はコード「アヤナミ」「ナガト」に代表される強力な属性の一つ「ポーカーフェイス」を宿す萌え属性キャラでした。そして主人公の父親は普通っぽい人でしたが、おそらく母親の属性にノックアウトされた萌え野郎だったのでしょう。二人の間には兄と妹の二人の子供が出来ましたが、その二人とも母親の無表情を譲り受けたため喜怒哀楽が存在しない家族団欒というシュールな光景が出来上がってしまったのです。父親は萌え野郎だったので楽しそうにしていますが、その食卓で笑っているのは一人だけというのを想像すると背筋が冷えるものがあります。
無表情属性の二世キャラとして誕生した兄がこのお話の主人公であり同時に悲劇の主人公でもありますがこんな奴はどうでもよくて、この度神が我々に新たに与えられた平和とは妹の寿平和(小学三年生)のことなのであります。
いわば二世タレントのような存在の彼女ですが、彼女も兄と同じように無表情で悩み、無表情だけで食って行けた一世タレントの母親とは違った道を開拓しなければこの先淘汰されてしまうことは間違いありません。遺伝のランダム性で異なる道を歩んだ彼女の選択は素晴らしいものでした。彼女は表情こそありませんが、内に秘めた感情は実に色彩豊かであり、時にクラスの友達関係で悩み時にみんなを笑わせようとしたりと頑張る姿はこんなもん人気が出ないわけないじゃないかと確信せざるを得ない強烈無比な可愛らしさを奮っていました。そう、彼女は自らの表情を犠牲にした代わりに全人類に平和をもたらす神からの使者に他ならない証拠であります。
我々人類が神からの報いに応える方法はいつだって祈る事だけであります。さあ諸君、人類よ、今こそ手と手を取り合って平和のために神へと祈りを捧げましょう。これからも続く平和を願うために一つになって祈りましょう。
どうか神(作者)さまが続きを出してくれますように。


※前作「僕は彼女の9番目」、前々作「リヴァースキス」共に思いっきりいいところで終わったくせに二巻以降が出ていないという作者の所業を私はずっと覚えています。作者が「もう誰も覚えてないだろうな〜」なんて思っているようだったら大間違い、いるさ!ここに一人な!あれは面白かったからな!何の音沙汰もなしに3年ぶりに新作を出してて驚きましたが、意外と覚えている自分にもびっくりさ。