庵堂三兄弟の聖職 (2日目)

庵堂三兄弟の聖職 (角川ホラー文庫)


これは一体どの話が主軸になるのだと悩む、末広がりっぽい印象のある構成となっておりました。遺体を工芸品に加工するアブナイ雰囲気の作業風景がメインなのか、そんなアングラなお仕事を頼む依頼人とのドラマがメインなのか、それとも死んだ父親とヤクザの頭との伏せられていた確執がメインなのか、はたまたそれ以外のどれかか、どの物語にも偏ったと思えるほどの趣はあまり感じられずに平等に扱われている気がなんだかしました。どれでも好きなお話に感情移入すればいいじゃないとの作者のお達しなのかこれは。
それなら私はこの「庵堂三兄弟の聖職」を、次男の久就の成長物語として楽しむぜ!
いや、この次男って作中でも結構一般人よりの人間なんで感情移入と言うか親しみが湧きやすいんですよね。故郷から離れて営業の職に付くも、厳しいノルマと劣悪な職場環境に苦しむ毎日の次男。この未来への夢と希望の無さが、同じように社会で生きる私の同情をとっても誘います。そして久しぶりの帰省で出会う、非日常的な出来事の数々。人間をバラバラにして作りかえる兄貴のお仕事、三男は仕事用の霊柩車でお出迎えしてくれ、火葬場に付くと沈鬱な表情を浮かべる遺族の対応をする、それがかつての日常だった次男の思い出。様々な経験を通して、この燻ったサラリーマンの次男が一皮剥けて成長してくれやしないかと期待して続きを読んでいたものです。
そして最後には新たな気分と共にまた勤務先へと戻って行く次男の姿がそこに! どうみてもこれは次男の成長物語ではないですか。憂鬱な現実に立ち向かう元気を読者にもくれる、そんな家族物語であったと思います。さわやかと言うには少々肉片や血飛沫が多量に含まれていますけどね。
それでも読み終わった後の気分はどこか爽快ですらありますよ。